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第30話 極道の本宅で迎える新年

「親父、結人迎えに行ってくる」  大晦日の午後、祥吾は父親である会長に告げる。 「ああ、可愛い子猫のお迎えだな」 「はあーっ、広沢そんなことも報告してんのか」  広沢が笑いをこらえるように俯く。腹は立つが、結人を子猫のように可愛いと側近達に漏らしたのは自分だ。 「じゃれつかれて可愛いがってるんだろ。仲がいいのは結構なことだ」 「まあな、あいつ肉球付いているんじゃないかって思うよ。だけど結人には言うなよ。怒って来なくなるぞ」 「怒っても可愛いだけじゃないのか」 「ふっ、それはそうだけどな」  結人が怒ってもそれこそ、猫の威嚇より怖くはない。可愛いだけだ。祥吾の顔は自然とにやつくのだった。  結人のマンションへ着き連絡すると、結人がバッグをもって出てくる。 「それお泊りセットか?」 「そうだね、二泊だから。だけど、本宅で泊るなんて未だに気が進まないよ」 「今更何言ってるんだ。姉貴も来てるし、玲は、朝から早く迎えに行けってうるさかったぞ」  燁子と玲の二人がいるのは救いだけど、極道の本宅で年越しとは、何の因果かと未だに思う。  今隣に座る祥吾との付き合いが全ての始まり。しかし、何度か別れようとして、出来なかったのは自分だ。  こうなったら開き直るしかない。今日はそう思って出てきた。  ほどなくして本宅の塀が見えてくる。何度見ても要塞のように大きい。多分、鬼神一家は極道の中でも規模が大きいのだろうと結人は思う。  車が車寄せに止まると、祥吾が降り、結人に手を差し出す。黒服たちが並んでいるのが分かるので、降りたくないと思う。いつも思うけど、こんなに大勢で出迎えなくてもいいのに……。  結人が降りると、玲が駆け寄って来る。 「おにいちゃん、まってたよ」 「玲くん、こんにちは。お邪魔するね」 「おじゃましてね。きょうはおとまりするんでしょ」 「うん、そうだね」 「やったー! ぼくといっしょにおふろはいろ。そしていっしょにねようね」 「だめだ。お前は姉貴と一緒だ」 「ちがうもん! ぼく、おにいちゃんとだもん!」 「もーっ二人共、結人さんに中へ入ってもらわないと。ごめんなさいね、さあどうぞお入りになって。父も待っているわ」  燁子の助け舟に、文字通り助けられる結人。どうもこの叔父甥コンビには振り回される。  玄関を入り、奥へと進んで行く。大晦日だろうか、以前とは雰囲気が違う。何というか空気感が違う。  今までとは違った緊張感を持ちつつ、会長の部屋へ通される。 「おーっ、結人か待っておったぞ」 「こんにちは、お邪魔します」 「今年は、奥での身内だけの場に出ればいい。表の場には出なくていいから、楽に過ごすといい。玲と一緒にな」 「はい」  結人が返事すると、玲が「ぼくといっしょ」と言って、抱きついてくる。  要するに子供と同じ扱いだけど、結人にとってもその方が、気が楽だ。  この件は祥吾と東吾があらかじめ決めていた。  来年の正月は祥吾の相手として正式な披露目にする。その為、今年は慣れておくだけでいいと。全くの堅気の結人には、徐々にこの世界に馴染ませる。二人の思惑の一致だった。  その時、結人には床の間の鏡餅が目に入る。物凄く大きい。 「どうかしたか?」 「あ、いや鏡餅が凄く大きいと思って」 「客間のはもっと大きいぞ。今日は、客は来ないから後で見てくるといい」 「ぼくがおしえてあげる。こっちだよ」  玲に連れられて客間に来ると、なるほど会長の部屋の物より更に大きい。  後ろから来た祥吾に尋ねる。 「これ本物の餅?」 「当然だ。毎年餅屋に注文している。昔はうちでついていたがな」 「へーっ餅つきしてたの。面白そう」 「お前が興味あるなら、来年から復活してもいいな」  結人が喜ぶならなんだってしてやりたい。意外な所に結人の喜ぶツボがありそうだ。  その後結人は、玲と祥吾の案内で家中を見て周り、玄関に飾られている門松も見て、その大きさに慄く。  改めてここは、個人の家ではなく極道の本拠地であると認識する。私的な空間は奥だけなのだと。  行く所々ですれ違う男たちが深々と頭を下げるのには、未だに困惑する。これに慣れることがあるのか……。  夕食が済むと、玲がきらきらした瞳で見つめてくる。  どうしたのかなと反応すると「おにいちゃん、いっしょにおふろはいろ」と言う。 「だから、お前は姉貴と入れ。結人は俺と入る」  はっ、はあーっ、ここで一緒に入るなんて絶対に無理! それだったら玲と一緒に入る。  結人そっちのけで叔父甥コンビの攻防が始まる。全く、結人の取り合いだ。 「もーっまた始まった。あんたたちは結人さん取り合って。結人さんは一家の大切なお客様だから、ゆっくりと一人で入ってっもらうのがいいの」 「えーっ!」  二人が一斉に言う。こんなところも似てるのに結人は苦笑する。なんだかんだ似た者親子ならぬ、似た者叔父甥なのだ。  しかし、結人にとっては燁子の言葉は助け舟。一人でゆっくり入りたいのは本音だけど、なんだか不安もある。  にやつく祥吾の表情も気になる。無事に一人で入って出て来られるのか……。ここは玲と入るのが無難と思う。  玲を見ると、期待の眼差しで見上げられる。 「一緒に入ろっか」と言うと「うん!」と抱きつかれる。 「はあーっ、なんだお前ら」 「結人さんいいの?」

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