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第31話 極道の本宅で迎える新年
燁子に案内された客用の風呂。その大きさと豪華さに結人は驚く。ここは、風呂まで豪華だ。しかも、客用って……。
この時の結人はまだ知らないが、ここ本宅には若い衆たちが複数入れる風呂に、会長専用の風呂とその他の家族用の風呂もある。
後にそれを知った時は、結人もかなり耐性ができていて、軽く驚いたくらいで済むのだが。
裸になって浴室に入ると、玲がまじまじと結人の男の部分を見る。
「おにいちゃん、ぼくのよりおおきいね」
「まあそうだね。おとなだからね」
確かに玲のは、可愛いらいしいのがちょこんと付いている。
「パパのはもっとおおきいよ」
「そっか、パパのは大きいんだ」
「うん、じいちゃんのも。おじちゃんのはしらない」
そうか、祥吾とは一緒に入ったこと無いんだ。それにしても皆さん立派なものをお持ちで。祥吾のものは知っている結人は思う。
「大人の中では僕のは小さいほうだろうね」
「だけどぼく、おにいちゃんだいすき!」
そう言うなり、その小さい手で、結人のものを握る。「うわー!」ちょっ、ちょっと! 無邪気なんだろうけど、結人は焦りまくる。
お風呂疲れた。一人で入って祥吾に乗り込んでこられたらと思ったけど、いや、それよりはましだったかも……。
風呂から上がった後も結人の側を離れない玲だが、子供は寝る時間だと三角に強制退場させられた。物静かな人だが、父親の威厳は絶大のようだ。あれも大きいし……。
「年越しそば食うぞ」
そうか、今日は大晦日だったと、今更ながら思う。
「夜食に年越しそばなんだね」
「本来の年越しそばは、夜食うもんだ。お前はいつ食ってたんだ」
「母が健在の時は昼ごはんで食べてた。一人になってからは食べてない」
「食ってない! お節は?」
「やっぱり母は作ってくれたけど、一人になってからは、正月って言ってもいつも通りだよ」
「なんか侘しいってか、去年も呼べばよかったな。まあ、まだそういう仲ではなかったがな」
去年の今頃は、付き合ってはいたが、ここ本宅へは来てはいなかった。
改めてこの一年激動の年だった。母の亡くなった時もそうだったけど、結人の学生生活は波乱に満ちていると思う。
ゆく年くる年を観ながら年越しそばを食べ終わると、結人は寝室となる客間に案内される。
自宅のリビングルームより広い、床の間付きの客間。その広い部屋で、不思議と淋しさはなかった。
温かいそばで温もったのは、体だけでなく、心もだった。
結人は、新しい年の最初の夜を安らかに眠った。
元日の朝、祥吾の姿を見て結人は驚く。
「どうした?」
「いや、その格好」
「ああ、元旦だからな正装だ」
正装、祥吾は紋付袴姿なのだ。はあーっ、極道の正装って、やっぱり一般とは違う。
って言うか、自分はこの姿でいいのだろうかと、不安になる。正月なのでいつもよりはきちんとしているが、祥吾と比べたら普段着だ。
「僕、この格好でいいの?」
「ああ、今年は表へはでないから大丈夫だ」
なんか昨日から『今年は』って言われるけど、来年も表へは遠慮するよ。とてもじゃないが、僕が紋付袴なんて、七五三だ。
応接間に並べられたお節料理の豪華さに、結人は目を見開く。
なんと全て相川と配下の手作り。表の客用のものは外注だが、奥の身内用の物は毎年手作り。さすがは、元本職だと思う。
「結人と玲は来なさい」
会長に手招きされる。
「お前たちには年玉だ」
祝儀袋を渡され結人は困惑する。自分にまで年玉とは……。
「あっ、いや僕は」
「遠慮せんでいい。お前はまだ学生だからな」
と、言われてもと、手を出さない結人に祥吾が口を出す。
「結人、貰っておけ。この世界、一度出したものを引っ込めることはない」
ああ、確かに固辞するのは失礼になる。結人はありがたく受け取ることにする。
「ありがとうございます」
頭を下げて受け取りながら、これいくら入っているの? 一枚って感じじゃない。
実際、あとから確認して驚く。十万だったからだ。お年玉って額じゃない。これが極道の世界かと、改めて認識するのだった。
「結人、お節は久しぶりだろ、存分に食べろ」
「うん、いただきます」
どれから食べるか迷うけど田作りに目が留まる。胡桃が入っている。母の田作りもそうだった。結人の好物。
以前は、胡桃は入っていなかったが、あの件があって、今年から入れるようになったのだ。
挨拶にきた相川へ、「お節凄いですね、美味しいです」と言い、感激させるのだった。
初めての極道の正月。驚くばかりだが、一番驚くのはこれからだ。まさにクライマックス。
初詣に行くというので、元旦だからと軽く考えた結人。
神社に着くと、会長と祥吾を先頭に黒服たちが続く、まさに大名行列のような様相に心底驚く。
結人は玲と一緒に行列の中ごろを歩く。周りは広沢たち祥吾の側近が固める。
会長と祥吾が、屋台の大将たちに声を掛けていく。皆最敬礼で応えている。この屋台の全てが鬼神一家の経営なのだ。初詣を兼ねた、本宅へ新年の挨拶にこれない者達への激励なのだった。
綿菓子屋の大将が、「坊ちゃまに」と玲に綿菓子を渡すと「おにいちゃんにも」と催促する。
すぐさま綿菓子を貰った結人は、その派手な絵の描かれた袋に困惑する。恥ずかしい……。
その後もなんやかんやと貰い、側近達が引き取ってくれるとほっとする結人だった。
完全に玲と扱いが同じ。つまり、子供の分類。それはそうだ。
会長はいつもと同じ感じだが、祥吾の纏う雰囲気は、自分と一緒の時とは違う。あの、川上組と相対した時とも違う。
これが極道としての常の祥吾の顔だと結人は思う。
自分は、こういう世界の人と付き合っている。強制されてではない。完全に同意のもとの付き合い。
祥吾だけではない。自分も祥吾に惹かれている。祥吾は極道の世界の人。僕は、極道の世界の人を好きなんだ。
結人には刺激の強すぎる極道の正月。
この経験に結人が感謝するのは、来年の正月になるのだった。
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