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第32話 プロポーズ
実務研修決定通知が届く。
逸る気持ちで開封すると、第二希望の立川だったので結人はほっとする。
どこに決まっても仕方ないとは思っていたが、転居の必要ない場所が最善だ。
早速祥吾にメールすると、速攻で電話がかかってきた。結人以上に祥吾がやきもきしていたのだ。
『いやーっほっとした! 良かった! お前を知らない田舎に行かせるのは心配だからな』
「僕もほっとした。転居するのはめんどくさいからね。立川なら通う分には全然問題ないからね」
『ああ、良かった親父も心配してるから早速伝えておくな。で、明日会えるだろ』
「うん、大丈夫だよ」
『分かった、夕方迎えに行く』
電話を切った祥吾はガッツポーズ。祥吾にとっては最高の通知だ。護衛のことを考えると、東京より立川のほうがいいと思っていたからだ。
都心より郊外の方が護衛には都合が良い。何もかもが上手く進んでいる。自然と顔がほころぶ祥吾だった。
「親父、結人の研修場所立川に決まった」
「ほーっ、一番いい場所じゃないか」
「ああ、あいつは東京を第一希望にしていたが、護衛を考えると立川の方がいいと思っていた」
「そうだな、何も心配することはなかったじゃないか。これで全ては計画通り進む」
「ああ、明日会うから結人にも全て話してくる」
「承知だ」
「さすがというか、若もですが、結人さんも持っていますね」
祥吾を見送った三角が感心したように言う。
「そうだな、二人共持っていると言える。それも相性だろう。祥吾は良い伴侶を見つけたな」
「はい、鬼神一家の次代は安泰です」
「ああ、そして次に繋げねばならん」
東吾の言葉に、三角は静かに頷いた。
――――
ホテルの車寄せに車が止まる。来たことのあるホテル。あの日のことは忘れられない。
結人は戸惑いの目を祥吾へと向けると、頷かれた。そして、先に降りた祥吾から手を差し出され降りるように促される。
そしてあの日と同じように、広沢と五人の男たちに囲まれてホテルへと入り、エレベーターに乗る。
えっと、今日はここで泊るの……なんで……。考えているうちにエレベーターが止まり、部屋へと入る。
「なんでここに?」
「ああ、今日は特別の日だからな」
特別な日? 確かに日常に泊る場所ではない。
そして今更ながらに思う。あの日は特別な日だったと。だから祥吾はこのホテルに泊まった。初めての夜だったから。
「結人」と呼ばれ、祥吾と向き合うと、小箱を差し出される。
「俺と一緒になってくれ。嫁というか、お前は男だから伴侶だな。これはその証の品。女なら婚約指輪だろうが、男に石付きの指輪はあれだから、時計にした」
えっ、伴侶……時計。結人には突然のことで咄嗟に声が出ない。
祥吾はそんな結人の手を取り、時計の入った小箱を渡す。
「俺の気持ち受け取ってくれるか?」
「というかもうとっくにその前提になってたみたいな、正月もそうだったけど」
「ああそうだ。だけどけじめは必要だし、お前にちゃんと証の品も渡したかった」
順番が違うだろとは思うが、嬉しいのは確か。暗黙だったことが正式になる。そうなれば、いよいよ結人も覚悟を決めなければならない。
祥吾と共に歩むことを。そうなれば、当然結人も極道の世界に入るということ。
祥吾が結人の手を取り、時計をはめる。
「サイズ丁度良いな。お前の手首のサイズは感覚で分かっている」
「うん、丁度良い。これ凄い高級時計だよね、高いんでしょ」
「お前に安物は似合わんからな。まあ、結構な値段ではあるが当然だ」
祥吾が結構な値段って言うなら相当なものだ。聞いたら怖い、知らない方がいいかもと思う。
「だけど、こんなの学生には分不相応だよ」
「もう卒業するだろ。来年には立派な弁護士だ。俺の伴侶であると同時にうちの顧問弁護士なんだ。これくらいは当然だ」
祥吾の気持ちは嬉しい。それは確かだけど、修習生がこれを着けるのはさすがに目立つ。修習が終わるまでは祥吾と会う時だけ着けようと結人は思う。
「ありがとう、大事にするね。あっ、でも僕からは何もない……」
「何もいらない。お前は身一つで来てくれればいい」
祥吾は結人を抱き寄せる。
「これで婚約を交わした。お前は俺のものだ。来年、お前の修習が終わったら結婚だ」
「同性婚はできないよ」
「養子縁組だ。それでお前は鬼神へ嫁ぐことになる」
「嫁ぐって、僕男だよ」
「男でも鬼神の人間になるんだから嫁ぐだろ」
「……会長さんとかも承知してるの?」
「勿論だ。親父のことは親父と呼べ。会長さんとかよそよそしいだろ」
「でも、なんか呼びにくいよ」
「親父は、とっくに呼び捨てだろ。それは身内扱いしてるからだぞ。お前もそのうちなれる」
結人も呼び捨てにされているのは気付いていた。でも、親父は……ちょっと無理。
「親父は……親父さんなら言えるかも」
「仕方ないな、まあいいだろう。それでな、今後のことだが本宅に新居を用意する」
「本宅に新居?」
「ああ、昔親父が俺のお袋と一緒に住んでいた離れを取り壊して更地にしてある。そこへ俺たちの新居を建てる。本宅の離れになるな」
「そういえば、空き地があったような」
「ああ、そこだ。今から手配するのに、極力お前の意見を取り入れるが、基本は和風建築でいいか?」
あの本宅の離れと言っても、洋風建築は似合わないと結人も思う。
「うん、それはいいよ。そうなると僕のマンションは引き払うことになるよね」
「勿論だ。今から引き払って、本宅の客間に住んでもいいぞ」
「いや、それは本の量が凄いから。あっ、その離れ僕の部屋もあるの?」
「ああ、寝室は一緒だがお前の部屋は造ってやる。その辺はちゃんとお前の意見取り入れるから安心しろ。マンション賃貸だろ。来年三月まで家賃の負担大丈夫なのか?」
「それは母さんの保険金とかで大丈夫。もし、修習が地方になると家賃の負担が二重になるから、それはきついと思っていたから良かったよ」
「そうか、俺もほっとしたぞ。じゃあ、来年修習が終わったら引っ越すことで、お前もその心づもりでいてくれ」
「うん、わかった」
「あと、仕事場は本宅の俺の執務室、あそこにお前の机も置いてと思っているが、いいか?」
「それって僕の弁護士事務所を本宅におくってこと? というか最初から専属ってこと」
「そうだ。専属の顧問弁護士だ。本宅が一番安全だからな」
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