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第35話 結人の誕生日
「次の土曜日会えるか?」
『ごめん、土曜日は裁判所での実務研修でいつ終わるかわかんないだ』
「じゃあ、日曜は?」
『うん、何とかなるかも』
「かもって、忙し過ぎるだろ。大体裁判所が働かせすぎだろっ」
『働かせ過ぎッて、職員じゃないから。僕は研修生だから学ばせてもらっている身なんだよ』
「はあーっ、とにかく土曜だめなら日曜何とかしろ。修習が始まって全然会えてないし、次の日曜は絶対に会う」
『次の日曜絶対って……どうして?』
「何の日だよ」
『何の日?……あっ、誕生日!』
「お前、今気づいたのか?」
『うん、すっかり忘れてた』
「全くお前は……思い出したんなら会うぞ、いいな」
祥吾はそう言って電話を切る。
結人の司法修習が始まってから会えない日々が続くが、次の日曜は結人の誕生日。この日は絶対に会いたい。本当は前日の土曜の晩からと思っていたが、それは仕方ないと思ってあきらめるしかない。
そんなわけで、祥吾は例のホテルを予約した。翌日月曜は、勿論結人は修習。えーっと反論する結人を、日曜は早めに就寝するし、月曜の朝修習場所まで送り届けると約束して何とか納得させたのだった。
「明日の着替え持ってきたな」
「勿論だよ。明日ちゃんと送ってよ」
「任せろ、そこは抜かりない」
「大体泊まんなくても食事だけでいいのに」
「はあーっ、俺はもう限界なんだよ。お前は大丈夫なのか」
何が限界かは分かってはいるが、正直結人はそこまでは無い。修習に追われていることもあるが、性的に淡泊ではある。
祥吾にけしかけられないと、自分から欲しがることはない。結人が求める時、それは祥吾の巧みな誘いの結果なのだ。
「まあ、大丈夫だよ」
「ったくお前は、俺は干からびそうだっていうのに」
「干からびるって……祥吾さん、出してるだけじゃん」
出してるだけ! 何たる爆弾発言! 結人は時々無自覚に爆弾をぶち込むから油断できない。
「出してるだけって、俺はお前に触れると潤うんだよ。肌と肌の触れ合いから、お前の成分が吸収される。それに、ああーっお前の飲みたい! ふふっ今日も飲んでやる。干からびかけてるからな、ぐんぐん吸収されるぞ」
「のっ、飲むって!」
結人は飲まれたあれこれを思い出し顔を染める。こんな時の結人は無条件に可愛い。
夕食にはまだ早い時間。その前に結人を補給しようと考える。誕生日プレゼントは後から渡せばいい。何よりも結人の補給が最優先。
「こっち来い、可愛がってやるから。お前だっていい加減補給しないと干からびるぞ」
「僕は干からびない!」
言葉とは裏腹に、背中から抱きしめると抵抗はしない。
目の前にある結人の白い項。口付けると、びっくと反応する。結人はここの愛撫に弱い。
祥吾の愛撫に力が抜けて立っていられなくなった結人を抱き上げ、そのままベッドへと運ぶ。
祥吾が見下ろすと、潤んだ瞳で見上げられる。そうだ、まだ唇は奪っていない。
結人は意外とキスが好きなのだ。もう少し焦らしてやると、自分から求めるか……。
結人の唇を指で、そーっと触れる。触れるか触れないかの、微妙な加減で。
結人が、祥吾のシャツを掴み見上げる。潤んだ瞳は涙目になっている。欲しいのだ。指でなく唇が……。
祥吾の体の中心が、かっと火が付いたように熱くなるが、表情は余裕を装う。
うん、どうした? というふうに、指は付かず離れず。
焦れた結人が、自分から口付けて来る。
祥吾も限界だ。結人からの口付けを受けながら、自分からも求める。
お互いが求めあう激しい口付け。貪るように求めあう。
「うんっ」
結人の漏らした甘い喘ぎに、唇を離すと、濡れた結人の唇は、煽情的で祥吾を煽る。
いつもは優しく脱がすが、そんな余裕はない。剝がすように脱がせて、全身を愛撫していく。
結人の全てが、甘く祥吾を誘惑する。白い肌が桃色に染まっていく様が、祥吾には例えようもなく魅惑するのだ。
「結人、愛している。ここに、俺の、いいな」
「うん、きて……あっ、はやく」
結人も理性を失くしている。素直に祥吾を求める。
祥吾を受け入れる可愛い蕾。指で十分に解れているそこは、祥吾を待ちわびて、ひくひく。
禁欲しているつもりはなかった。けれど、こうなって見ると、自分も祥吾を欲している。
早く、早く欲しい。今の結人はそれしか考えられない。ただ、ただ祥吾の熱いもので、あの極上の心地よさを味わいたい。
「ああっ、熱い……おく……いい」
「ああ、お前の中は熱くて、気持ちいい」
「うん、いい……動いて……」
勿論動く。結人に求められたら、期待以上に応える。それが鬼神祥吾。
一度引き、結人の感じる所を刺激するように奥へと入れる。
結人の喘ぎが、甘く大きくなる。それは祥吾の動きの伴奏になる。更に、激しく深く突き上げる。
「ああんっ、ああーっ……いくっ、いくーっ」
「ああ、いくぞっ」
極みに登りつめた結人を抱きしめ、祥吾もその精を放出させる。
意識を失くした結人に、荒い息遣いの祥吾。
抱きしめた結人が愛しい。俺のもの、絶対に離さない。
「プレゼント? まだ時計貰ったばかりなのに」
「時計は婚約の証、これは誕生日プレゼントだ。開けてみろ」
「ありがとう」と言って、包みを丁寧に開ける結人は、中を見て目を見開く。
「ネクタイピンとカフスのセットだ」
「うん、こんなの持ってない」
「そうだろうと思ってな」
「うん、これ宝石? なんていうの?」「」
「アレキサンドライト、六月の誕生石だ。色が変わる不思議な石だ」
「そうなんだ。凄くきれい。だけど、これも贅沢だよ。今のスーツに合うかな」
結人には、時計共々分不相応に思える。
「スーツも考えたが、採寸が必要だからな。正式に弁護士になる時はスーツやシャツもオーダーで作ってやるから、それから着けるといいだろう」
「うん、てか、あんまり飾り立てても似合わないよ」
「そんなことはない。お前には上質な物が似合う。上品できれいだからな」
「って、真顔で言わないで、恥ずかしい」
「全く持って事実だから、真顔で言うのが当然だ。まだ自覚してないのか」
「それが恥ずかしいんだって。ところで祥吾さんの誕生日っていつなの?」
「四月だ」
「ええーっ、終わってるじゃん」
「そうだな」
「そうだなって、言ってくれれば良かったのに」
「言ったら何かしてくれたのか」
「うん、こんな高価なものは出来ないけど、ちょっとした物は」
「そうか、それは惜しかったな。まあ、今年はバタバタしてたからな。その分来年期待している」
「あんまり、期待されても困るけど、来年は何かするよ」
祥吾の誕生日。毎年派手に祝うわけではない。極道にとって、誕生日祝いは、重要な意味をもたない。毎年、淡々と過ごす。自分でも忘れていることだってある。そんな扱いだ。
しかし、来年の四月は確実に結人は自分の伴侶として隣にいる。
その結人が祝ってくれればうれしい。まだ先の話だが、産まれて初めて、祥吾は誕生日を待ち望む気分になるのだった。
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