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第37話 弁護士事務所での実務研修

 研修も残すところ一週間となった日、結人は木原正隆から夕食に誘われた。  研修の合間に食事を慌ただしく一緒にすることは日常になっていたので、今回も同じように思っていた。なので、連れて行かれた店がフレンチレストランだったので意外に思った。 「どうしたの?」 「いや、こんな高級レストラン」 「そこまで高級ってわけじゃない。気楽に食事できる店なんだ」  と言って、かなり高級感があるし、個室に通された。とてもカジュアルな店とは思えない。 「研修も残り一週間だけど、どう、感想は?」 「はい、大変勉強になったと思います。若先生には本当にお世話になりました」 「榊君は弁護士志望なんだろ。君だったら、判事でも、検事でも合格すると思うけどもう決めたの」 「はい、弁護士と思っています」 「就職する事務所は決まったの?」 「いえ、まだです」 「君ほどの人なら引く手あまただと思うけど、かえって決められないのかな。まあ、丁度良い、うちに来てよ。父もそう思っている。是非来て欲しいと」 「ありがたい申し出ではありますが……」  結人は言葉を濁す。何処にも就職するつもりがないと明かして良いものか……。  今晩のこの食事は事務所への勧誘のためだったのか……来なければ良かった、今更遅いけど。 「まさか……もしかして即独するつもり」  図星に結人は固まる。 「えっ、図星!?」  木原は目を見開く。通常即独するのは、どこにも採用されない者、つまり使えない者だからだ。結人とは対極である。しかし、思い当たるふしはある。だから今日は誘ったのだ。前々から予約して……。 「図星ついでに、榊君、君はゲイだよね」  余りの爆弾発言に、結人は驚愕する。 「ああ、ごめんびっくりさせたね。ここは個室だから安心して。それにこのことは誰にも話さない。俺もゲイだから」  追い打ちの爆弾発言に、結人は声も出せない。 「これもびっくりだろ。事務所では公にしてない。まあ、父は知っているし、察している人はいると思うけどね。まあ、だからね君がこちら側の人だって分かるんだ。君が即独するって、それが理由? 隠しながらの勤務が大変なんだろうとは思うからね」 「僕の場合それだけじゃ……非嫡出子でもあるので」 「そんなこと君の責任ではないし、何の問題にもならない。少なくとも弁護士にはね。君の抱いている懸念は、うちでは問題にもならないし、君の能力を買っている。安心して来て欲しい」  困ったことになった。何とかやり過ごさないと、結人は食事を味わうどころではない。  そんな結人に木原は、更なる追い打ちをかける。 「榊君、君は受け身側だよね」 「……っ」 「ふふっ。分かるんだ匂いでね。恋人いるんでしょ、愛されてるんだろうと」  匂い! 愛されている! いつもは理路整然とした結人の頭の中は混乱状態。 「それも図星のようだね。君は彼氏に愛されているから、それを続けたい。だから非嫡出子よりむしろそれが即独の理由。だけど一度冷静になって考えて。それで幸せになれるのか。彼氏がどういう人なのか知らないけど、それでは君の将来のためにはならない。はっきり言うよ、別れた方がいい」  もしかして、木原は祥吾のことを知っているのか? 自分が極道と付き合っていると。 「そして、俺と付き合って欲しい」  今晩の爆弾の中でも特大級の爆弾! なんでそうなる!? 「えっ! い、いやなんでこの流れで……」 「俺としては、今晩は君に告白して交際を申し込む。そのためのこの食事だから、最終の結論を言ったんだけどね」 「そ、それは……今、わっ若先生も言われましたけど、僕には付き合っている人がいるので」 「だから別れたほうがいいと。まあ、直ぐに別れなくても俺とも付き合って、うちの事務所に入って、最終的に切ってくれればいい。俺だけのものになってくれたら、浮気は許さないけど、現状今は二股でも構わない」  なっ、何その理論。祥吾も自信たっぷりだが、この男はそれ以上かもしれない。 「とりあえずは、うちでの研修終わったら集合研修で、その後試験だからね。君もそれに集中したいだろうからね。返事は急がないけど、修習後はうちに席を用意して待っているよ。父もそのつもりだからね」

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