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第39話 極道のクリスマス
約束の日曜、結人は祥吾の迎えの車に乗り込む。
「うちへ行く前に洋装店による」
「洋装店?」
「ああ、お前のスーツを注文する」
スーツの注文? と思っていると連れて行かれたのは、いかにも高級な店。結人の持っているスーツはデパートで買った既製スーツ。オーダースーツとは、やはり世界が違う。
「オーダースーツなんて贅沢だよ。それに三着も」
「お前に既製なんか着せられるか」
「今は既製スーツだよ」
「まだ正式にうちの者じゃないし、学生みたいなもんだからな」
「それにしても三着も……」
「気にするな。出来上がるのは年明けだが、うちからのクリスマスプレゼントだと思え」
それにしては過分だと思うが、もう採寸も済んでしまったので、結人もそれで納得することにする。
「そうだ、かんじんなことを。あいつ、あれからどうだ?」
「あれからって、別に進展はないけど」
「何もされてないな?」
「勿論だよ。何かしたらセクハラでしょ。弁護士なんだからそこはわきまえているよ」
「そうか、ならいいけど。研修あと三日だろ、気を付けろよ」
「うん、分かってる」
祥吾にはそう言ったが、純粋に進展が無いとは言えない。木原が結人を諦めた訳ではないからだ。
ただ、結人はあと三日無難にやり過ごしたい、そう思っている。
本宅に着き、車を降りると、玲が抱きついてくる。結人が車を降りるのを待ち構えていたのだ。
「玲くん、こんにちは」
「おにいちゃん、やっと来てくれた」
後ろには燁子もにこやかに立っている。
「結人さんいらっしゃい。久しぶりだけど元気そうね」
「はい、ご無沙汰しています」
「おにいちゃん、クリスマスツリーがあるよ」
「おおー、そうだ早速見てみろ」
そう言って連れて行かれた部屋に、どーんと佇むクリスマスツリーに結人は驚く。
大きい! 毎年こんなの飾っているの?
「ちょっとびっくりした。極道でクリスマスって思ったけど、毎年こんなの飾ってるの?」
「いや、今年初めて飾った」
そうなのだ。さすがに極道の本宅でクリスマスを祝う風習はない。つまり、結人を呼ぶための初めての試み。
「ぼくんちのはもっとちいさいよ」
ああ、そうだろうな、普通はそうだ。結人は改めて鬼神一家の規模の大きさに驚く。
すると若頭の久城が姿を見せる。後ろには何人もの黒服たち。結人はピリッと緊張する。
「結人さん、ご無沙汰しております」
「あっ、こちらこそご無沙汰しております」
久城は、大柄な体格ではなく雰囲気もどちらかというと優男の分類だ。しかし、さすが若頭だけあって、独特の威圧感を感じる。結人は丁寧に挨拶を返す。
「どうです。このクリスマスツリー?」
「はい、凄いですね。大きくてびっくりしました」
「若いもんに飾らせたんですが、初めてのことで、気に入っていただけたかと」
うわーっ、なんか大ごとだったんだ。結人は申し訳なさを感じる。
「うわーっ、なんかお手数おかけして申し訳ないです」
申し訳なさに声が段々と小さくなる。素直な反応に久城は好感をもつし、報われた思いを持つ。正直、最初は極道の本宅にクリスマスツリー!? と思ったが、意外と若い衆たちも楽し気に飾っていた。
この人が喜ぶなら極道の本宅でクリスマスも悪くないと、久城は思う。
「今日は料理も相川がクリスマス料理を作ってるんで楽しみにしてください」
そう言い残して、久城は配下の黒服たちと去っていく。その後ろ姿に結人はほっとする。無難にやり過ごせたようだ。
「おにいちゃん、きょうはごちそうだよ! おとまりするんでしょ?」
でたーっ、玲のお泊り攻勢!
「ごめんね、明日はまだ勉強があるから今日は帰るよ」
「そっかー」
途端にしおれる玲。懐いてくれるのは嬉しい。未だになんで好かれているか分かんないけど。
「玲くん、サンタさんきたの?」
「きたよ! レゴのブロックだったよ! ぼくほしかったんだ! おにいちゃんにもきた?」
「僕はもう大人だから来ない。サンタさんが来るのは子供のところだけだからね」
「そっかーおにいちゃんおとななんだね」
そうだよ、大人なんだよ。玲を見ていると子供はいいなと思う。サンタを信じていた頃が懐かしい。
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