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第41話 極道の餅つき

 結人の実務研修は全て終了した。  年明けから、再度の集合研修。そして二回試験と呼ばれる、最終試験に合格すると正式に弁護士となる。  木原法律事務所での最終日、結人は木原から再度誘いを受ける。  事務所での就職と、交際の両方での誘い。そのどちらにも丁寧に断る。 「俺は諦めないよ。交際はともかく、就職はうちにするべきだと思うし、仮にうちでなくとも即独だけは賛成できない。そこは君も考えたほうがいい」  そう言われた。時折連絡するとも言われた。  木原の誘いに、全く揺れなかったと言えば嘘になる。結人にとっても、考えさせられたのも事実。しかし、祥吾と別れる選択は出来なかった。  木原の言う、当面二股かけるのも、それは出来ない。そんな器用さは結人にはない。  連絡が来ても返信することはないだろう。そうしていずれは、風の噂で結人の近況も伝わるかもしれない。ならば、木原のほうから離れていくだろう。 「ほんとに餅つきするの」 「お前が言ったんだろ、面白そうだと」 「そうかもしれないけど、ほんとにするとは思ってなかったから」 「極道の実行力を舐めちゃいかん」  舐めちゃいないけど、今更ながら思い知るのだ。  そして本宅に着くと、軽く言ったことがここまで大事になるとは、結人は昨年の自分に怒りたくなる。  中庭で餅つきの準備がされ、若い衆が群れているのだ。皆はちまきまでして、凄い騒ぎだ。  そして皆が一斉に結人へ挨拶をするので、軽くたじろいでしまう。  えっと、こんにちはと言う感じに軽く会釈する。すると、相川が満面の笑顔で近付いてくる。相川もはちまき姿である。なんか、どこぞの大将という出で立ちだ。 「相川さん、なんか凄いですね。あの、相川さんが餅つくんですか?」 「いや、さすがにつくのは若い衆に任せます。わしら厨房の者は餅米の準備と、つき上がった餅の料理担当です。色んな味付けで楽しめますよ」  はーっ、成程と感心していると、餅つきが始まった。ぺったん、ぺったんと威勢よくつき上がっていく。  結人は玲と一緒に、邪魔にならないように、でも興味津々で見ている。  なんだか楽しい。餅つきって面白い。玲を見ると、やっぱり楽しそうで、にこっと笑顔を交わす。 「よしっ、俺もつくぞ」  祥吾が加わると更に盛り上がる。  力強くつきあげていく祥吾。中々壮観で、その姿は頼もしい。  こういう時の祥吾さん、初めて見るけど、結構かっこいいと、少し惚れ直す気分。結人の気分も上がっている。  餅がつき上がる。 「結人さん何味がいい?」  燁子に聞かれて、結人はうーんと考えて黄な粉にする。すると玲が「ぼくもきなこ」と言う。  玲と二人で黄な粉をまぶしたつきたての餅を食べる。ほんのり温かくて美味しい。 「美味しいね」 「うん」 「玲くん、黄な粉がついてるよ」  満面の笑顔で、餅を頬張る玲の頬についた黄な粉をふきんで拭ってやる。 「お前にもついてるぞ」  祥吾がそう言って、結人の口の端についた黄な粉を指で拭い、ぺろっと舐める。 「ちょっ、もーっ」  人前でなんてことするんだと、結人は祥吾を睨みつける。その頬はほんのり赤くなっている。  結人に睨まれてもちっとも怖くないどころか、可愛いだけだ。だが、結人には未だにその自覚は全くない。 「はははっ、お前たち三人は仲が良いな」  笑い声と共に、会長が現れる。  なんという所に! 見られた……。 「俺たちはいつでも仲が良い」  恥ずかしくて、隠れたい気分なのに、祥吾はむしろ自慢気だ。全く人の気も知らずにと、恨めしい。 「ああ、良いことだ。皆、楽しそうじゃな」  満足気な会長の後ろには、なんと久城はじめ幹部たちまでいる。結人は益々困惑するが、皆、その表情は柔和だ。 「餅つきなんて久しぶりですが、良かったですね」 「ああ、そうだな。結人の発案だが良かったな。若い衆の親睦にもなる」 「ほんとに、結人さんありがとうございます」  久城から礼まで言われ、結人は恐縮する。軽く言っただけで、自分は何もしていない。  しかし、この世界。  結人が言った。だから開催した。皆が喜ぶ。それは結人のおかげ。  そうなるのだ。だから、結人に感謝するのだ。 「結人さん、このまま正月まで滞在されるので?」  久城の問いに、玲が期待の眼差しで結人を見つめる。 「いや、今日は帰ります。また大晦日に来ます」 「えーっ帰っちゃうの! おとまりして!」 「ごめんね。まだお勉強が残ってるから今日は帰るね。大晦日はお泊りするからね」  抱きついて訴える玲に、結人は頭を撫でながら、優しく言う。  その姿を、皆が微笑ましく見守る。いずれ玲が養子になることを知る者は、安堵の思いも持つ。これなら大丈夫だと。 「おおみそかおとまりするときは、ぼくといっしょにねようね」 「だめだ! お前は姉貴と一緒に寝ろ」 「おじちゃんにきいてないもん」  小声で言って、抱きついてくる玲。 「聞こえてるぞ。結人は俺の部屋で寝る」  はっ、はーっ、! なに言ってるの! そっ、そんなことできない! 「れっ、玲くん、僕と一緒に寝ようね」  慌てて言う結人に「やったー!」と抱きつく玲。当然祥吾は苦い顔だ。 「全くお前たちは、結人の取り合いか」  面白そうに言う会長に、皆が頷く。  微笑ましい三人。家族とは違った仲の良さを感じる。それは、鬼神一家の未来に明るさを感じさせる。  四代目、そして五代目へと継がれていくだろうとの予感。  祥吾は最高の相手を見つけた。誰しもがそう思うのだった。

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