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第43話 結人のお披露目

 三角から、表の準備が整い、皆が着座していると告げられる。  東吾が立ち、祥吾がそれに続く。結人もそれに続くと、玲もついて来ようとして三角に止められる。  一人置いていかれて、涙目の玲に見送られる。僕も泣きたい気分。久しぶりにドナドナの歌詞が浮かぶ。哀れな子牛は僕……。  表の大広間。入り口には若い衆が揃って並んでいる。三人の姿を見ると、皆が一斉に頭を下げる。結人の緊張が一気に高まる。  祥吾の後ろから中へ入ると更に驚く。一体何人いるのか!? 大広間はぎっしり人で埋まっている。皆、紋付袴の正装で、壮観である。  ここで怯んではいけない。結人は気持ちを奮い立たせる。下を向いてはいけない、前を見ろと、自分に言い聞かせる。  上座に進むと、東吾が着座し、祥吾が続く。結人も祥吾に促され、三角の介添えで着座する。それを見て、東吾が頷く。 「明けましておめでとう」  東吾の言葉に、皆が一斉に「明けましておめでとうございます」と返す。 「新年のめでたい席で、更にめでたい知らせがある。一家の四代目を継ぐ祥吾が婚約した。相手は榊結人。見ての通り男だが、今の時代何の問題もない。しかも結人は、東大卒で春には弁護士になる。一家は長らく姐さん不在、そして顧問弁護士は未だにいない。その両方に結人はなる。実にめでたい。皆も一緒に祝ってくれ」  会長東吾の言葉に、皆口々に、めでたい、おめでとうございますなどと言い合い賑やかな様相となる。  若頭の久城が立ち上がると、賑やかさが静まる。その後久城から、三月結人が正式に弁護士になった後、婚姻の儀式、親子固めの儀式を執り行うと告げられる。  皆の視線が結人に集中している。それを結人は嫌とは感じなかった。  結人は進んでここに来たわけではない。  合意があったとはいえ、祥吾との関係は最初から、なし崩し的にここまできたのだ。  抗ったこともあったが、結局結人自身がここに来ることを決めたのだ。それは否定できない。  もうここまで来たのだから、受け入れよう。幸い嫌ではない。嫌ではない、それが答えかもしれない。  皆が順番に結人の許へ挨拶に来る。あらかじめ三角に渡され説明を受けた一家の組織図を見ながら受け答えをしていく。  三角の心配りには感心する。さすが、会長の娘婿、最側近だけのことはある。何も知らない結人にこの組織図は役立つ。祥吾が横から、次はこれだと指差してくれるので、混乱なく理解できるのだった。 「しかし若、東大卒の弁護士の卵さんなんかと、どこで知り合ったんですか」  系列組織の組長、故に一家の構成員からは叔父貴と呼ばれる初老の男の言葉。 「叔父貴、運命というやつですよ。俺と結人は出会うべくして出会った」  その言葉に結人は驚く。何回も言われてはいるが、こんな皆がいる場で、堂々と……。それも自信たっぷりに。  結人の驚きと戸惑いとは裏腹に、皆「ほーっ。それは凄い!」などと、口々に感心している。  いや、そんな真に受けて感心されると……。  でも確かに運命なのかもしれない。だから僕はここにいる。そして、それが嫌ではない。  祥吾が言うように、天涯孤独の自分に、祥吾は居場所を作ってくれたのかもしれない。母を亡くして、ひとりぼっちの僕に……。 「うちも相談したい案件があるのだが、いいだろうか?」  叔父貴の問いに会長が応える。 「ああ、いいぞ。その為の顧問弁護士だがらな。結人、三月本宅へ来た後からなら大丈夫か?」 「はい、正式に弁護士登録した後でしたら、お受けできます。ただ、成り立ての若輩者ですが」 「それは追々慣れていくだろうし、お前が優秀な事は確かだ」 「ありがたい。その節はよろしくお願いします」  叔父貴から深々と頭を下げられ、結人は面映ゆい。即独弁護士で、若輩者は事実なのだ。しかも、今はまだそれすら先の話。  弁護士としての自分を待っている人がいる。それは結人にとって大きな力になる。木原に忠告された即独弁護士の道。  迷いもあった、だがこのまま進んで行こう。 「結人、決心はついたか?」  正月の儀式が終わり、奥に引き上げほっとした結人へ、東吾が声かける。  決心はついたか――その言葉に結人は、東吾の顔を見つめる。 「お前さんの顔が変わった。覚悟が出来たのではないか」  さすがだ。今日の結人の気持ちの変化を、この人は見通している。 「はい、そうですね」  きっぱりと言った結人に、東吾は満足そうに頷く。祥吾も同じように頷いている。  二人共、結人の変化を見切ったのだ。鬼神一家の人間になるとの覚悟を。  待っていたのだ。結人が覚悟するのを。それでなくては、鬼神一家の姐にはなれない。  昔、東吾の嫁、祥吾の母は、その覚悟を持てず家を出た。その轍を踏みたくはない。  祥吾が望み、東吾が認めた結人。後は、結人自身が覚悟を持つだけだったのだ。  その後、初詣に繰り出す。昨年経験しているが、やはり大名行列の様相だ。  昨年は玲と二人お子様の扱いだったが、今年は違う。会長に続いて、祥吾と一緒に皆の挨拶を受ける。  本宅で幹部たちから受けた挨拶とはまた違うものがある。イキのいい的屋の兄さんたちからの挨拶は気持ちを高揚させるものがある。    本宅へ戻るとさすがに疲れを感じる。それは、心地よさを感じる疲れ。  抱きついてきた玲を抱きしめてやると、会長から頭を撫でられる。触れられたのは初めて。なのに懐かしさを感じた。何故だろう?     結人にとって二度目の本宅での元旦は、こうして無事に終わる。  結人が鬼神一家の人間になる記念すべき年の元旦。結人の記憶に長く残るのだった。

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