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第45話 鬼神一家本宅へ

 翌日から早速、結人の引っ越し準備が始まる。と言っても、若い衆が応援に来たので、結人がすることは本の整理だけ。  しかし、その本が多量なため、それが一番大変ではある。  結人も読書家で、かなりの量だが、亡くなった母親の蔵書は、編集者だけあって多量なのだ。全て亡き母の思い出なので、本宅へ持ち込むことになる。  祥吾が多量の本を目にして、半ば呆れたように言う。 「凄い量だな。書斎の本棚多すぎじゃあって思ったけど、かえってこれ足りるか?」 「母さんの蔵書があるからね。僕のよりそれの方が多いんだ。多分大丈夫だと思う」 「足りない時は買い足すといい。お前の書斎広くして良かったぞ」  離れを建てるにあたって、結人が出した唯一の希望が、専用の書斎だった。広い書斎、そして壁一面本棚にしたのは正解だったと祥吾は思うのだった。  本を全て段ボール箱に詰めて運び出す。 「よしっ、これでお前は本宅へ行くぞ」 「ここの後片付けとかは?」 「それは若い衆にまかせたらいい。荷ほどきも本が一番大変だろ」  それを言われればそうだ。本は結人が自分でしないと、若い衆では分からない。ここは、甘えて任せることにする。  結人は残る若い衆へ、お礼の声掛けをして部屋を出る。この三年は一人で暮らしたが、母と暮らした思い出の残るマンション。車へ乗る前に心の中で『ありがとう、さようなら』一礼して車に乗り込んだ。 「結人さん、そろそろ今日は終わりにされませんか?」  本の片づけに、夢中になっていた結人は相川の声に振り返る。 「いやーっ凄い量ですね。でもまだまだですか?」 「まだ半分以上残っています。でも今日は終わりにします」 「それがいいでしょう。さすがにお疲れでしょう。今晩の夕食は会長がご一緒にと言われていますので」 「ああ、お前が正式にここへ来た最初の晩だから一緒に食いたいそうだ」  相川と祥吾の言葉に、結人も異論はないので頷く。 「そうだ、結人さん朝飯は何が良いですか? いつもはどうされてましたか?」 「前日に買っておいたコンビニんパンと野菜ジュースでした。今朝もそうでした」  結人の答えに相川が絶句する。男の一人暮らし、よくあることではあるが、なんと侘しい朝食なんだ。 「そ、そうですか。じゃあ、朝はパン食のほうが良いですか?」 「うちの朝食は基本皆和食なんだ。しかしお前が、洋風がいいならそうしてもらえ」 「ううん、めんどくさいからパンにしてただけだから、僕も和食のほうが良いな」 「そうですか、でしたら同じものにしますが、何かご要望があればいつでもおっしゃってくださいね」 「いやあ、作ってもらえるだけありがたいし、美味しいから要望なんてないです」  結人にとっては、実感の籠った言葉だったが、相川はその言葉に、結人への好印象を更に増すのだった。  食事を終えて、離れの部屋に入る。書斎以外は大体片付いている。  そうか、今日からここが僕の住まいか……。 「どうだ、この部屋気に入ったか? 何かあれば言ってくれ」 「うん、なんか凄い贅沢な部屋。二人で住むには大きいし」 「お前と俺が住むんだから当然だ。後は書斎が片付けば完璧だ」  一通り見て回ると、一部屋だけ空室になっていることに気付く。 「この部屋、空いているけど」 「ああ、この部屋な、実は、玲の部屋なんだ」 「玲くんの?」 「お前にはまだ話してなかったが、俺の跡は玲に継がせる。お前と俺では子は出来んからな。親父と俺の考えで、無論兄貴、そして姉貴も賛成している。お前も承知してくれるか」 「承知するも何も、僕はいいけど、じゃあ、玲くんここで一緒に住むの?」 「ああ、俺の跡目だから俺と養子縁組する。つまり俺とお前の子だ。親子が一緒に住むのは道理だからな。お前の承諾なしに進めたが、お前を鬼神へ受け入れるのに必要な事なんだ。事後承諾ではあるが承知してくれるか」  確かに、鬼神一家が結人を受け入れるようにすると言っていた。玲のこともその一環なんだと結人も理解する。 「僕はいいけど、玲くんここに住むって、両親と別れていいの?」 「俺たちと親子になるんだからそれが良い。さっきも言ったが兄貴と姉貴も賛成している。玲にはまだ話してないが、お前にあれだけ懐いているんだ問題ないだろう」  懐いてくれてるのは確かだけど、それとこれとはと、思わなくはないけど……。 「で、いつから?」 「まだ決まってない。先ずはお前がここの生活に慣れてからだ。完璧に鬼神一家の人間として大丈夫だとなってからだな。まあ、玲もまだ小さいし、急ぐ話ではない。だから、お前が負担に感じることはないぞ」  成程そうか、祥吾さんは僕のことちゃんと考えてくれている。  最初は強引な人だと思った。今でもその強引さはある。だけど、決して理不尽な人ではない。結人の事も考えてくれている。もしかしたら、それを一番に考えてくれている。結人はそう思った。  玲がここへ来たら、毎日が叔父甥バトルで賑やかな事になりそうだ。それはそれでいいのかもと思う。思えば、自分も随分鬼神の人間に慣れたというか、毒されたというか……。 「そういえば、玲くん来てないね」  いつもは結人が来るのを出迎えてくれる玲の姿が無いのを今更ながらに気付く。引っ越し騒ぎですっかり忘れていた。 「ああ、引っ越しであいつがちょろちょろすると危ないからな。完全に片付くまで出禁にしてる」 「確かにね……ふふっ」 「なんだ?」 「いや、玲くんここに来たら、さぞ賑やかだろうと思って」 「ああ、だけどここへ来たら、俺たちが親なんだ。俺はあいつを立派な跡目にするためには厳しく接する。親父も俺にそうしてきたからな。お前も親なんだから厳しくしていいぞ」 「うん、だけど親二人共厳しいのも良くないと思うよ。甘やかすのはいけないと思うけど」  正直結人には自分が親になれるのか、想像もできない。自分が祥吾の伴侶になるためには最善ではあるかもしれない。けれど、玲は玲の人生がある。無論、玲の両親にも。三人の人の人生が、自分によって大きく変わるのではないか。その怖さも感じる。自分にそれだけの資格があるのか……。  だけど、今ここで引き返すことはできない。ここまできたのだ、受け止めよう。  自分にこれからできるのは、その時できる最善を尽くすこと。玲の親になった時もそれは変わらない。

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