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第3話 今、なんて?

「「「月城せんぱ~~い!!!」」」 「! やばっ……!」  二人の静寂を破ったのは階段を下がってきた女子生徒たちの声。  瞬時にサングラスを掛けなおした月城と呼ばれた男は、声が聞こえてきた方向を確認すると今度はそれと逆の方向を向いた。 「月城……」  咲夜は手元の切り抜きに視線を落とし、ランキング第二位の文字の隣に書いてある名前を確認した。月城瑠華《つきしろるか》――まさに咲夜が探しにいこうとしていた人物であった。  状況を考えると月城は女子生徒から逃げているようだ。それならばこの後にする行動は容易に想像がつく。しかしそれは咲夜にとっては好ましくないものといえる。 「ごめんね、俺もう行かないとだから!」 「まっ、待ってください!」 「お詫びならまた今度するからさ!」 「この時間なら校舎裏の倉庫が開いてると思います!」 「!」  月城の目が少し見開く。口を開きかけたが、詳しい場所を聞こうにもそんな猶予は残されていない。女子生徒たちの姿が大きくなってきているのだ。  「月城さ、うわっ!?」  「聞いてる時間ないから責任もって案内してね!」  グッと片腕を引かれた反動で少しよろけたが、なんとか体勢を立て直す。止まっていた足が大きく動き出した。  離れないように腕を引かれながら、長い廊下の終わりにある外を目指す。走りながら目的の倉庫まで言葉を発するのは息が上がる。酸素を必死に吸いながら咲夜は走った。  そうして倉庫にたどり着いた二人は大きく肩を上下に動かす。追いかけていた女子生徒たちの姿はない。どうやら途中で巻くことに成功したようだ。先に息を整えた月城が倉庫の扉を開けた。 「もう大丈夫だと思うんだけど少しの間中に隠れるね、走ってた俺を見てる生徒もいるだろうし」 「そ……そうで、すか……」 「何か俺に用があるなら聞くよ?」 「え……?」 「違うの?さっき引き留めたのって、俺に用事があるからだと思ったんだけど」 「いいんですか?」 「これで用済みだから帰れっていうほど鬼じゃないってぇ~」  こうして人を虜にしていくのか――瞬間的に咲夜の事情を把握した月城に驚きを覚えるのと同時に、みんなに好かれる理由をなんとなく分かったような気がした。  倉庫の中に足を踏み入れる。余裕はあまりないが、2人が隠れるには十分な広さだあった。掃除はあまり行き届いていないようで埃臭さが鼻をつく。扉を完全に閉めると一気に暗さがました。外がまだ明るいのと、曇りガラスのおかげでなんとなくであれば中の状態が見える状態だ。呼吸音が静寂にやけに響く。 「思ったよりも暗いねここ……ね、サングラス外しても大丈夫?」 「どうぞ」 「ありがと」  月城はサングラスを外してワイシャツの胸ポケットにしまう。顔の前に垂れた前髪をかき上げると、廊下では少ししか見られなかった琥珀色の瞳が咲夜を捕らえた。目が離せないというよりは吸い込まれそうな感覚に咲夜は痛感する、この人と自分とでは住む世界が違うのではないか、と。 「……なに?俺のこと好き?」 「は……?」  一歩後ずさる。  なるほど。人気者は視線だけで相手の心情を把握していくのか。全くもって好きではないが。  けれど見目麗しい月城にかかればあんな一言でも喜ぶ人間もいるのだろう。   「ちょっ、そんなにドン引かれると反応に困るんだけど」 「ドン引かれるようなことを言うほうが悪いと思います」 「そうだね……ふふっ」 「今度は何ですか」 「いやぁ、なんか新鮮な反応でついね」  よほど反応が面白かったのだろうか、月城はしばらくクスクスと笑っていた。廊下で会ったときの微笑んだ時とは少し印象が異なって咲夜には見えた。どちらかというとこちらの方が素の表情なのだろうか。 「それで?人気ランキングの記事を持ちながら俺を探していた理由は?」  なんでそんなところまで見てるんだよ。  そう突っ込みを入れたかった咲夜ではあったが、ここはグッとこらえた。思わぬかたちではあるがこうして人気者の月城と2人で会話できるなんてめったにない機会なのだから。 「実は今度の文化祭で演劇をやるんでよ。演劇部なんで」 「演劇」 「はい。それで一緒に舞台に出てくれる人を探していて……」  予想とは違う話だったのだろう。月城はぽかんと口を開く。  右手を顎に添えて何かを少し考えている様子だ。   「――いいよ」 「悠真に言われて月城さんたちに声をかけ――え?」  こうなったら正攻法で事の経緯を全て話して承諾を得ようと腹をくくって話していた咲夜。自分の耳が間違ってなければ今確かに――。 「面白そうだからやるよ!演劇!」 「いいんですか?」 「逆にダメな理由ある?」 「い、いえ……」 「あぁ、じゃあさ。一個だけ条件つけていい?」 「何ですか?」 「俺たち同級生でしょ?敬語禁止で!」  人気者で明るくて太陽みたいな月城の考えは咲夜の想定を遥かに超えていた。条件というからには誰かさんのように無茶難題を押し付けられると覚悟していた咲夜は呆気に取られる。 「名前、なんて言うの?」 「黒崎咲夜……」 「俺の名前分かる?」 「月城」 「下の名前」 「る、瑠華」 「ん。じゃあそういうことでよろしく、咲夜」  差し出された手を条件反射で握り返す咲夜。拍子抜けするほどあっさりと月城瑠華のスカウトに成功した。  窓ガラスからのわずかな光に琥珀色が輝いた。  

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