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第4話 はじまりは嘘

 思いもよらない瑠華の快諾から咲夜は内心かなり浮かれていた。  このまま順調にもう1人のスカウト候補である冬宮零《ふゆみやれい》も案外すんなりと話が進むのではないかと錯覚を覚える程度には。  倉庫に数分間滞在した2人は悠真に報告をするために部室へ向かう。  いつの間にか瑠華はサングラスをかけていた。 「ねぇねぇ!何の劇をやる予定なの?」 「それは俺も分からない」 「そうなんだ。咲夜はその辺には関わらないの?」 「まぁ俺がやるより悠真がやった方がよさそうだしね。台本とかさ」 「悠真……って一条悠真?」 「そうだよ?」  それは予想外かも。そう言わんばかりに瑠華は目を見開く。  普段めったに態度が出ない悠真と対称的に、リアクションが少しオーバー気味な瑠華との会話を咲夜は新鮮に感じていた。   「へぇ?咲夜って一条君と仲いいんだ」 「ん-……なんか、いつの間にか部活作って気づけば入ってたんだよね」 「そんなことある?」 「初めて会ったときの事は覚えてるんだよね。色々衝撃的で」 「なにそれ聞きたい!」  今まで横にいた瑠華は、グッと咲夜の前に回って進行を妨げた。どうやら悠真との出会いを話さないと先に進ませてくれないらしい。それを察した咲夜はあの日をことを思い返した。  ――息をするかのように他愛のない嘘から始まったあの日を。  実を言うと咲夜は中途半端な時期にこの学園に転校してきていた。それまでは地元の学校に通っていたごく普通の一般人だったのだが、ある日突然、家に入学案内の知らせが届いた。  咲夜自身は(今でも)己の中の能力がなんなのかは分かっていないのだが、どうやら学園側にはそれらを観測できる人物がいるらしい。その人物に認められて咲夜は清峰学園の門をくぐることになった。  能力を持つ者は持たざる者より社会的地位が高い傾向にあるが、その種類によっても変わってくる。なので能力を持っていればいいというものでもない。中には危険な能力を持つ者もいるため、能力者の教育には国をあげて力を入れている。  それは能力を持っている可能性のある人間も該当する。それこそがこの学園に招かれた理由である。 「……あ、咲夜って途中から入った人なんだ。俺と一緒だね」 「へぇー!なんか意外かも」 「まぁ俺の事はいいから続き聞かせて!」 「それでまぁ転校してきたんだけど……初日に遅刻したんだよね。起きたら11時だった」 「初日から社長出勤かぁ〜」  人生で一番を争うほど猛ダッシュで登校してきたはいいものの、なにせ初めて入った建物でどこに何があるのか全くわからない咲夜は途方に暮れた。  使われていないであろう靴箱に下足を入れ、上履きに履き替える。どうにかして職員室へ向かいたい咲夜に窓から吹き込む風に髪の毛が舞い、視界を遮る。反射的に瞑った目を開けると、そこにはこちらを不思議そうに見ている生徒が1人。  咲夜が持ち合わせていない光にキラキラ輝く金髪。グレーの瞳はどこか儚げに見えるが、芯が通っているように力強さを感じられる。  王子様――そんな言葉がここまで似合う人物はそうはいないだろう。 『君は……』 『あ、あの!職員室を探しているんですけど!』 『なるほど。転校してきた人なんだね。職員室はここを右曲がって階段を降りた先にあるよ』 『ありがとうございます!急いでいるので失礼します!』 『あ、まっ……』  呼び止められた言葉は咲夜には既に聞こえていなかった。   「これで咲夜が女の子だったらラブコメ始まってそう」 「感想が雑くない?」 「なんか思ってたよりも普通というか……ありきたりでちょっとだけ残念」 「この時俺は書類を落としてたみたいでさ、悠真が後を追いかけてくれてその流れで校内の案内もしてくれたんだよ」  悠真は嫌な顔せずに校内を歩きながら案内した。1回だけでは覚えきれないと判断した咲夜は説明も半分くらいしか聞いていなかった。やや上の空の咲夜を知ってから知らずか、次第に悠真も説明以外の事も話すようになっていった。  『黒崎くんはどんな能力を持っているの?』  『あぁ……それは俺もまだ何なのか分かってないんだよね』  『そっか。早く分かるといいね』  『そうだね。一条くんは知ってるの?自分の能力』  『一応ね。でも教えないよ』  『あ……なんか、ごめんね?』  『……別に初対面だからって理由じゃないからね?』  『そ、そうなんだ』  思っている事は悠真に筒抜けなのだろうか、それとも無意識で言葉に出ているのだろうか。とっさに口元を手で覆う咲夜に悠真は少し笑う。  最後にたどり着いたのは咲夜が生活する寮の一室だ。  この学園の生徒は国のいたるところから入学や転校をしているため、寮生活をしてる者が大半を占める。基本的には2人で一室を使うのが原則である。咲夜も例外ではないが、案内された部屋には咲夜の荷物しか置いてなかった。けれどベッドは2つ。 『本当は2人部屋なんだけど余ってる部屋が無いから、誰かが寮に入るまでは一人部屋なんだって』 『あぁなるほど』 『案内はざっとこんなもんかな……』 『どうもありがとう。生活が落ち着いたら部活もやってみようと思ってるんだけど、一条くんのおすすめってある?』 『そうだな……なんてどうかな?』 『演劇部?そんな部活、パンフレットに載ってたっけ……?』 『――。あぁごめんね?実はまだできたばかりの部活だからパンフレットには載ってないのかも』 『あ、なるほど。そういうことか』  それは悠真自身も気づかない、ほんの僅かな沈黙――届いていた荷物の封を解きながら会話をしていた咲夜には知る由もなかった。 『……黒崎君』 『ん?』 『もしも自分の能力がいつの日か分かったとしても――それを簡単に他人に言わない方がいいよ』 『え、そうなの?』 『うん。だから僕も教えなかったでしょう?さっき』 『確かに……』  そのしばらく後、咲夜は悠真に演劇部へと勧誘される。息をするように吐いた他愛ない嘘が、水面下で事実へと変わったことはもちろん咲夜は知らない。      

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