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第5話 折られました、高い鼻
「……驚いた。まさかこんなに早く連れてきてくれるとは思わなかったよ」
咲夜と瑠華が共に部室へ入ってきたのを見て、悠真はきょとんとした。
そんな悠真を見て咲夜は内心ムッとする。どうやらスカウトがうまくいくと思ってなかったようだ。やるときはやるんだぞ――そんな心情とは相反して、思い切りドヤ顔をした。
「じゃあ次は冬宮くんの説得、頑張ってね」
「えっ、マジで冬宮くん誘うの?」
今度は瑠華の目が見開く。悠真の驚きとは違って本気で言ってるのか、と言いたげだ。
「何か問題ある?」
「いやさぁ……冬宮くんて劇なんてクソくらえ。とか思ってそうじゃない?愛想ないタイプじゃん?」
「だからだよ、月城くん。無愛想だけど人気者、そんな人がライトを浴びてお客さんに笑いかけてるところを想像してごらん?」
悠真や瑠華のような普段から笑顔を絶やさないタイプよりも破壊力が段違いなのは間違いない。しかも話題性もあり注目を浴びるのは簡単に想像できる。
部活動存続のためにそこまで考え込まれていてぬかりない悠真に、咲夜は圧倒された。それと同時に冬宮勧誘へのプレッシャーを感じた。
「ぬかりないなぁ……というか、そこまでして演劇部を廃部にさせたくないのは何で?」
少しだけ瑠華の目がわずかに細くなる。さきほど咲夜から聞いた話に、どこか思うところがあったようだ。
「放課後のこの時間が好きだから、じゃあ理由にならない?」
「まさか。正当だと思うよ」
コンコン――穏やかな空気がわずかに湿度を帯び始めた絶妙なタイミングで部室のドアが叩かれた。
開かれたドアの先には想定外の人物。
「演劇部ってここで合ってる?」
切れ長の黒い瞳と髪がやけに印象的なのは、血色が少し悪い肌のせいだろうか。覇気のない声はどこか気だるげで色気を醸し出していた。部室のドアに1番近いところにいた咲夜だけ、彼――冬宮零から少しだけ発する甘い香りに気がついた。口が少し動いている。何かを食べているようだ。
「合ってるよ。何が用かな?」
「これ文化祭の書類」
「ありがとう」
「確かに届けたから。それじゃあ」
「あ!あの!冬宮くん!」
「……何?」
今にも部室から出ていきそうな冬宮がゆっくりと振り向く。眉間には薄く皺が寄せられていて、機嫌は少し悪そうだ。
「俺たち、文化祭で演劇やるのに人集めて――」
「無理。他当たって」
今度こそドアは無慈悲に閉じられた。ダメ元で声をかけたつもりだったが、ここまでこっぴどく振られるとさすがに凹みそうだ。
「あれ……予算の申請が全部却下されてる……」
「小道具から衣装まで全部外注なんて通るわけなくない?そういうのって自分たちで作るのが学園祭の醍醐味じゃない?」
「少しは玉砕した俺のフォローしてもらっていいですかね……」
演劇部を後にした冬宮は学園内のとある部屋にいた。部屋はかなり狭く、椅子と小さなテーブルがあるだけで他になにもなく、不気味さを醸し出しているが冬宮にとっては馴染みのある光景だった。
椅子に腰掛けポケットに忍ばせてあったグミを1粒、口に入れる。シュワシュワと唾液に溶けてコーラの味が染み出る。味よりもグミの刺激が好きな冬宮だが、何度か食べたこのグミの刺激には少し慣れ始めていた。
「こんにちは、冬宮くん」
「……ども」
部屋の天井に組み込まれているスピーカーから声が聞こえる。今回は渋い声の男性が相手のようだ。カメラも付いてはいるが、悪態をついたところで咎められないので冬宮は足を組む。
「今回は能力の有無を調べてもらいたい」
「相手は」
「黒崎咲夜、君と同学年の青年だ」
とある事情で学年問わず交流はある冬宮だが、聞き覚えのない名前だった。渋い声の男性の話は続く。
「能力所持の可能性があるとのことで転校した生徒だが、いまだに能力が開花したとの情報がない。本人が隠している可能性もある。彼は現在、寮暮らしで演劇部に所属していて――」
「(演劇部……?)」
顔の見えない相手の話が続いていたが、冬宮はあの場にいた人間を思い出していた。3人――そのうち2人は見覚えがあった。
「(残りの俺をまっすぐ見てたのが、黒崎咲夜か)」
交流関係もなく、生徒間で人気者ある2人の中にいた平凡という言葉が似合う人間。そして完膚なきまでに誘いを断った相手。
「(面倒くさ……)」
「――という人物だ。彼は現在、寮の2人部屋に1人で生活をしているので必要があれば手配をしよう」
「必要ないです。能力の有無が分かり次第報告するんで」
そうして冬宮は部屋を後にした。
廊下の外を見やると、既に太陽は地平線に隠れていた。
もうすぐ夜の時間が訪れようとしていた。
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