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第6話 停滞と、ひらめき
冬宮の勧誘が失敗して数日が経った。あれから特にこれといった進展はなく時間だけが過ぎていた。
本番に向けた準備は少しずつ始まっており、一度は突き返された予算の申請も、再度作り直して今は許可が下りるのを待っている状態だ。
他のステージ発表予定している団体との協議で公演を行う時間と順番も決まろうとしている。
事は至って順調である。役者は揃っていないが。
「はぁぁぁぁぁ……」
「どしたの?そんな大きなため息ついて」
「部室に来ると胃が……あと頭痛が……」
「一条くんのプレッシャーに押しつぶされてる」
咲夜は一度、悠真に対して冬宮ではなく他の生徒ではダメかと提案していた。けれど返ってきたのは数秒の沈黙と渋い反応でいい返事はしてくれなかったのだ。それを見かねた瑠華が知り合いで冬宮に似ている雰囲気を持つ人を紹介したものの、首を縦に振ることはなかった。
「諦めきれないってのと、時間がなくて妥協したいっていうのが一条くんをピリつかせてる感じだよね」
「そうなんだよ……どっちかに振り切ってくれたほうがまだ良かったんだけどなぁ」
咲夜は机に突っ伏した。悠真がまだ部室に来ていないこの時間が唯一の安らげるのにプレッシャーによる胃痛と謎の頭痛でかなり疲弊していた。けれど冬宮に対してチャンスとばかりに勧誘しバッサリと断られたのはほかの誰でもない自分のせい。一度断られておいて懲りずに何度も誘えるような鉄のメンタルは持ち合わせていなかった。
「冬宮くんを催眠術とかで洗脳とかできないかなぁ……」
「まぁ相手を催眠にかける能力、とかは実際にありそうだけどそんな能力持ってたらまず学園側が管理すると思うよ?」
「学園側が?」
「そ。そういうのって割と危険でしょ?そういう能力者は行動を監視されたりするらしいよ?噂だけど」
「へぇ……」
他の生徒の安全面とかも考えてのことなのだろう。けれど望まずに危険な能力を持ってしまった人間がいるとしたら、と考えた咲夜は微妙な気持ちになった。
「2人とも早いね」
「どちらかというと一条くんのほうが遅れてない?」
「本当だ、気づかなった」
部室に来る前にいろいろ準備をしていたのであろう。たくさんの書類が入ったファイルを机に置いて悠真は定位置のイスに腰掛ける。
「急で悪いんだけど、明日の昼休みに放送委員会の企画で僕たちの劇についての紹介をすることになった」
「明日!?」
「まぁとりあえず話すことは僕のほうでまとめてあるから、その内容を話すだけで大丈夫」
そう言いながら悠真は紙を手渡す。そこには明日の放送で聞かれることの内容と、それに対する答えが書かれていた。そして備考欄にはアドリブで質問されたときを想定して、答えていいことと悪いことがリスト化されている。おんぶにだっことは、まさにこのことである。
「月城くんは演劇部ではないから強制はしないけど、どうする?」
「明日の昼……あぁ、そういえば合コンもどきがあるんだよね」
「へ?」
「クラスの奴らがさ、どうやら俺が来るからって理由つけて他のクラスの女の子たちと食堂で昼ご飯食べる予定作ったみたいでさ」
「嫌なら断ればいいのに」
「一条くんと違って俺は期待に応える人間なの。まぁ正直、合コンもどきより劇の紹介するほうが楽しそうだけどね」
瑠華の口ぶりからすると、どうやらその手の話は今回が初めてではなさそうだ。本当の目的は知る由もないが、瑠華のような人気者でさらには人懐っこい人間と食事ができるとなれば、他のクラスで瑠華とあまり関わりのない女子生徒なら食いついてきそうではある。瑠華の人気にあやかって他のクラスの子と仲良くなりたい男子と瑠華と仲良くなりたい女子――そしてそんな両方の思惑を知ったうえで誘いに乗る瑠華。軽薄そうに見えて実は周りに気配りができるのが彼のいいところなのかもしれない。
瑠華への印象が少しずつ変わっていくのを咲夜は感じた。
「月城くんはアドリブに対してアドリブで返しそうな危険があるからいない方がありがたいかな」
「あはは!言うね、一条くん。否定はしないけど」
すごく丁寧に書かれたカンペを無視して適当に答える瑠華と卒なく訂正を入れていく悠真――なんて想像しやすい光景だろう。
「――いいこと、思いつたかも」
「いいこと?」
「成功するかはちょっとわからないけど、瑠華の話を聞いて思いついた。もしかしたら冬宮くんを誘える、かも?」
「え?冬宮くんを??」
「聞かせてもらえる?咲夜」
悠真と瑠華に作戦の内容を話す。話を聞いて瑠華は豪快に笑い、悠真は不敵に微笑むのであった。
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