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コントン

 少年は琥珀色のウィスキーをオンザロックにする。カラカラとマドラーと氷とグラスのぶつかる音がする。たらたらと血液のように氷の上に液体が注がれる。 「南極の氷です」 「ペンギンの足跡がついている」 男は笑った。 「はい」 筒型のグラスにチェイサーが用意される。  年季の入った一枚板の磨き抜かれたカウンターに、バカラのクリスタルが煌めく。少年の白い清潔な袖口。  遠い夢のように、周りの音は聞こえない。  儚い夢の香りがする。立ち消えてしまいそうな短い夜の匂い。閉じこめられた瓶の中に秘められた、樽の中で熟成された、ひそやかな想い。  愛しているという言葉を、これほど長く保存したら、こんな麗しい液体に醸し成るのだろうか? 「まだまだ、ずっと先です」 少年が言った気がした。ずっと先、ずっと先、いったいどれほど待っただろうか。いったいどれほど待てばよいのだろうか。いったいいつになったら……。 「これは、僕の気持ちを熟成させたウィスキーです」 男はグラスに鼻をつけた。 「舌を浸せば、もっと熱くなれますよ」 少年は誘った。  男は、液体に舌を浸した。薬液の香りのように痺れる、少年の気持ちの発酵酒は、男を混沌に陥し入れた。 「ジュ スィ コントン……」 少年の声が遠くで聞こえる。  男は、欅のカウンターテーブルに頬をつけた。頭の重みが、がくりと男の首を折った。  額に、涙が落ちた。と思ったら、それは生暖かい血で、ウィスキーの香りがした。  涙も夢も、すべてつめこんだ。それらは時を経て、甘く香る液体に変わっていった。そう流れてくるのは、歌なのか、少年の心なのか……。

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