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待夜の想い

 『碧翠堂』  待夜少年は、いつもその看板を見上げて店に通っていた。店の灰色のシャッターにも、碧翠堂という白く太い文字が蛇腹のようにギザギザに浮き出ていた。「古道具・骨董」と細い字で書かれているのを、いつも横目で見て通ったが、待夜は碧翠堂が開いているのを見たことがなかった。  待夜は、日が暮れてから店に向かい未明に店を出るからだ。  店の中は、どんなだろう。どんな物が売っているのだろう。待夜は想像した。  碧いサファイアや翠のエメラルドの指輪。おとぎ話に出てくるような仮面。王子の冠。海賊の旗。ドラキュラ伯爵のトランク。朝顔の凹んだトランペット。割れたガラス。  待夜は、思いつく限りの美しい物を想像した。そしてカクテルにこめた。色とりどりの想いをカクテルに閉じこめていった。

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