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待夜を待って

 碧翠堂は、待夜を待った。来る日も来る日も。  ある日、ことりと音がした。碧翠堂は、窓を開けてのぞいた。黒猫が帰ってきた。  でも、待夜は、帰らなかった。  それでも碧翠堂は、待夜の屋根裏部屋で、ずっと待っていた。待夜駅は閉まったままだった。  待夜駅は、人手に渡った。  それでも碧翠堂は待っていた。  碧翠堂は、閉めていた店を再開した。そうしながら、碧翠堂は、待夜を待っていた。髪に白いものが混じり、やがて皆白くなった。待夜が帰ってきた時のために髪を黒く染めた。待夜が自分を見分けられるように。  そして、ある日、碧翠堂は、ひっそりと屋根裏部屋で息をひきとった。  黒猫が、碧翠堂の胸の上で、ニャーと鳴いた。  碧翠堂の魂が、あくがれでたとき、碧翠堂は、すぐに、待夜を探そうと思った。  タクシーに乗って行き先を告げると、雨の夜、タクシーは、路地の入り口に止まった。  碧翠堂は、タクシーを降りて、待夜駅の階段を折りた。  待夜がいた。彼は、あまりにも若く、少年に見えた。  碧翠堂は、満足した。やっと、得たかったものが得られた。そう思うと、碧翠堂は、ゆっくりと天国にのぼった。

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