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窓ガラスを透した月あかり
碧翠堂は、もの音で、とりとめのない夢から覚めた。夢だった、と思うと、つまらない気もし、ほっとしもした。
黒猫が窓枠に置物のように座って、翠色の目を光らせていた。とん、という音を立てたのは、猫のシュタッと床に降り立ったときの忍び足だった。
黒猫の背後には木枠にはまった平らな窓ガラスがあり、窓ガラスを透して月あかりが室内に、ふりそそいでいた。木枠の溝にはあそびがあったので溝の間でガラスが揺れて、時おり思い出したようにカタカタ鳴った。
平滑なガラス板を通してこぼれた光は、床に、古びた維管束の木目に年輪を刻んだ凹凸のある板の間に、窓の桟の影を十字架のように落としていた。
碧翠堂は、さっきまでみていた夢を、もう忘れてしまった。思い出そうとしたが頭が重かった。猫が何かを見ていた。
その視線の先に、黒い影が山並みのように横たわっていた。山の端に月の光が白く光っていた。稜線は黒く起伏を描き、静かに息づいていた。
手脚を動かすと、素肌に洗いざらしの木綿のひやりとする感触がした。それは秋の空気だった。季節はいつのまにか急速に夏から秋へと移り変わりつつあった。
窓ガラスが、また微かに音を立てた。揺らしているのは、秋の夜の風だった。
黒い影が身じろぎした。
碧翠堂の隣に横たわっているのは、待夜駅だった。
待夜駅が、碧翠堂の横で、長い睫毛をふせて死体のようにひっそりと静かに眠っていた。
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