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猫を追って
ある晩、待夜駅の部屋の窓から猫が飛びだした。
待夜駅が寝台の上に立ち上がり伸びをして天窓を開けた。
「追いかけます」
そう言って待夜駅は、軽業師のように窓枠をつかんでヒョイとよじのぼり、白い寝巻き姿のまま裸足で天窓から飛び出した。
「待って」
碧翠堂は、天井に開いた虚空に向かって呼んだ。
待夜駅の裸足の足音が、屋根瓦の上をぱたぱたと走り去るのを、碧翠堂は確かに聞いた気がした。
碧翠堂は、緑色の縦長の羽根窓を両手で押し開けた。
ひんやりと湿った夜の空気が部屋に流れこむ。しっとりと肌に感じる空気中の水分。オーブが水蒸気のように浮かぶ夜。
月が笑っていた。
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