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第7話 契約結婚の提案

多分、無精子症と診断された僕だから、余計に反応してしまったのだと思う。 それでも、あんまりじゃないか。 僕の胸はまるで自分のことのように、ズキズキと痛んだ。 きっと、前の世界の僕の立場が、この世界のエルダーさんの立場と似ているからだろう。 「私のために怒ってくれるなんて、優しいですね、イヅルは」 「いえ……僕も、似たような境遇だったので」 にこにこと笑うエルダーさんを、まじまじと見た。 きっと心にもないことを言われたことがあるだろうに、あまり辛そうには見えなかった。 僕にとって無精子症は自分自身を否定された気分になったけど、そんなに強く生きられるものなのか。 いつか僕も、そんなことで自分の価値は変わらないのだと、些細なことだと一笑できるようになるのだろうか。 ……あれ? エルダーさんの話の矛盾に気づいて、内心首を傾げる。  Ωによって強制的に発情させられることがなかったのに、なぜ昨晩は違ったのだろう。 エルダーさん曰く、フェロモンを感じ取れない「欄外」なのに。 僕をΩと言い切るには、それなりの根拠があったはずだ。 「そう、私は今までどんなΩのフェロモンでも発情し(ラットになら)なかった。なのに、君だけは違ったんだ」 「どういうことですか?」 「つまり、君だけが私を発情させるフェロモンを持っているΩだということだね」 「僕だけが……?」 思わずクンクンと自分の匂いを嗅いでみるが、身体が拭かれたあとなのか、汗の匂いすらしない。 「そう。そこでイヅルに、提案なのだけど」 「はい」 「君はもう、元の世界に戻れないと思うんだ」 「はい」 目の前に現実を突きつけられて、僕は膝の上に乗せていた手をぐっと握る。 これから僕は、どうしたらいいのだろうか。 性別すら違う世界なのだから当然、文化も常識も何もかもが違うだろう。 言葉しかわからないこの世界で、僕は上手くやっていけるのだろうか。 「そこで、私が君を保護する代わりに、私と結婚するというのはどうだろう?」 「……はい?」 イケメンにしか見えない男性……いやαから急に求婚され、僕は耳を疑った。

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