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第9話 運命の番(side エルダー)
城の禁書庫から、二百年前ほど前の文献を取り出して軽く捲った。
二百年前、この国は「運命の番」としか番うべきではないという極端な番論を至上主義とする宗派が勢いを増し、出生率が著しく低下するという現象に見舞われた。
そしてそれを憂いた当時の王が「運命の番論」を禁止し、その宗派を弾圧して重婚を推奨したのだ。
当時は「運命の番」という言葉そのものを禁じたため、今ではごく一部の者しか「運命の番」という言葉を知る者はいない。
そして、今現在『欄外』と呼ばれている私たちは、過去には『優性α』や『優性Ω』と呼ばれていた存在である。
『優性』は他のαやΩよりも優位性があり概ね発情をコントロールできるため、普通のフェロモンにあてられたくらいでは発情せずにすむ。
そして昔から、どんなΩであろうとも、私が発情するほどの者はいなかった。
イヅルには同情をひくために『欄外』であることを引け目であるかのように話したが、実際は私にとって『欄外』は、むしろメリットでしかない。
Ωによって強制的に発情させられることがなかったし、煩わしい政略結婚からも逃れられたからだ。
それが、イヅルを見た瞬間に、その香りを嗅いだ瞬間に、人生で初めてのラット状態になってしまって心底驚いた。
本能的な衝動を抑えることができず、無我夢中で抱いた。
初めての行為はとてつもなく甘美で、知らない頃には二度と戻ることができないだろうと確信した。
昔の文献をパタンと閉じて、本棚に戻す。
それまで、Ωに反応しない自分について不便だと思ったこともなかったから、調べもしなかった。
イヅルの傍にいると、今すぐ抱き潰したいという衝動に、ひっきりなしに襲われる。
「運命の番、か」
恐らく、イヅルと自分が、そうなのだ。
運命の番なんて、眉唾物だと思っていた。
自分には一生、関係ない話だと。
本能で相手を欲するなんて、あり得ないと思っていたのに。
イヅルを見た瞬間、欲しくて堪らなくなった。
イヅルは自分が「男」という性別だと言っているが、私はイヅルがΩであると確信している。
イヅルが子を孕ませる能力が極端に低いことも、Ωであれば納得だ。
運命は、一目惚れに近いものだった。
相手を知れば嫌なところも見えて冷めるのかと思ったが、話せば話すほど、自分がイヅルに溺れていくのがわかった。
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