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マスカレード(5) 司視点 性描写有

 司は「マスカレード」にいた。いつものように仮面を着けて、バスタオルを腰に巻いて。1ヶ月に2回も来るのは初めてだった。  今日も客は少ない。顔が見えなくても体型や立ち姿で、常連ばかりだと分かる。同じく常連である司には誰も興味を示さない。刀みたいに、熱心に迫ってくる方が稀なのだ。  刀はまだ学校にいるだろう。もしかしたら、相川を指導しているのかもしれないし、その熱い想いを報告書にぶつけているかもしれなかった。そう考えると、司は次第に俯き加減になっていった。もう、先生は僕に興味が無い。そんな現実が心を冷やす。  ふと、扉が開く音が聞こえて顔を上げると、司よりも明らかに背の高い男が入ってきた。初めて見る客である。常連なら絶対に覚えているはずだった。  司は仮面やバスタオルを直し、姿勢を正して男が来るのを待った。刀に言われたことを思い出して、背筋をまっすぐに伸ばす。  男は、他の客を値踏みした後、司の前にやってきた。モデルのように均整の取れた肉体に、太り気味の司は気後れする。それでも、できるだけ視線を重ねようとした。  どうやら、男のお眼鏡には適ったらしい。司は手を引かれると、そのまま近くの個室に連れ込まれた。  個室に入るなり、男は自分のバスタオルを外した。体格に見合った大きくて長いものがぶら下がっている。こんなものを入れられたら、体が壊れてしまうのではないかと司はたじろぐ。そんなことに構いもせず、男は司のバスタオルを剥ぎ取った。既に屹立したものを見て、口元を愉快そうに歪める。吐く息がタバコ臭い。  司は男の腕に抱かれた。刀よりも薄い体。すぐに太い指が司の秘所を探し当て、突っ込んで来ようとする。性急なやり方に司は腰を引くが、腕の強さがそれを許してくれない。そのままズブっと指が入ってきた。 「い、痛い……」  思わず声が漏れる。それでも男は気に留めず、指を入れ続けた。1本だけでなく、2本に増やされる。何としてでも、男は挿入したいらしい。司は男の屹立したものを握らされる。子どもの腕くらいはある太さに、司は言いようのない恐怖を感じた。 「離して……」  何とか男の腕から逃れようとするが、もがくほどに締め付けはきつくなるばかり。ついに男の一物が宛がわれたのが分かった。最後の抵抗として 「嫌だ!」 と叫ぶ。もうダメだと思ったその時だった。  突然、個室の扉が開き、誰かが勢いよく中に入ってきた。そして、男と司の間に割って入り、力をこめて引き離す。 「離れろよ。嫌がっているだろ?」  聞き覚えのある甲高い声。男は突然入った邪魔に舌打ちすると、バスタオルを拾って出ていった。扉が閉まるのを見計らって、司は温かい腕に包み込まれる。 「ケガしなかったか?」  優しく問いかけられて、司の目から涙が零れた。声の主、刀の肩に凭れて泣きじゃくる。 「よしよし、怖かったんだな」  大きな手のひらが、子どもをあやすように背中を撫でる。次第に司は落ち着きを取り戻していった。 「何故ここに? てっきり相川と一緒にいると思っていました」  つい可愛げのないことを口走ってしまう。刀は司の顔に手を伸ばし、仮面を外した。自分の仮面も外す。どこか辛そうな眼差し。 「あいつに怒られたんだ。司が寂しがっているって」  思いがけない言葉に、司は目を丸くする。 「俺の話をしたら司が寂しい顔をしたって。あんな顔、初めて見たってな」  幼い頃から近くにいたとはいえ、そこまで見通せる相川の観察眼に司は驚いた。 「俺、気づいたんだ。ずっと相川にかかりっきりで、司のこと寂しくさせていたなって」 「別に寂しくなんか……」 「じゃあ、何故ここにいる?」  両肩をがっしり掴まれ、向き合う形になる。瞳を覗き込まれて、もう嘘はつけなかった。 「先生に会えなくて寂しかったから……」  素直な想いが唇から零れる。途端に刀は勝ち誇ったような顔をした。 「5cmなんて大したこと無いんだよ」  力強い抱擁。そして唇が重なる。 「俺は司を選ぶ。それが答えだ」  この前の問いかけ。刀はずっと気にしていたのだろう。司はずっと頑なだった心が解けていくのを感じた。  そのまま寝床へと横たえられる。刀は全力で想いの丈をぶつけてきた。 「俺の司。愛しているぜ」  跡が残るか残らないかの強さで、全身に口づけの雨を降らせていく。そのたびに司は甘い声を漏らした。こんなに気持ち良くしてくれるのは刀しかない。あらためて、そう思うのだった。 「先生、嬉しいよ」 「俺だって。もう、こんなになっているんだ」  そう言って、刀はいきり立ったものを見せつける。それは生き物のようにヒクヒクして、嬉し涙を流していた。 「本当は司と一つになりたいけど、今日はそんな気分になれないだろ?」  先ほど男に襲われたことを気にかけているのだろう。刀らしい優しさだった。  司は答える代わりに自分から刀を引き寄せる。そして、情熱的に唇を重ねた。 「……僕、先生なら怖くないです」  刀は満面の笑みを浮かべた。 「司にそう言われちゃ我慢できないや。痛くしないようにするからな。いいか?」  司はこくりと頷く。刀は荒く鼻息を吐くと、司の両脚を持ち上げた。秘所が露わになる。刀は何のためらいもなく舌を這わせた。 「先生、ダメだよ!」 「しっかり濡らさないと痛いだろ?」 「でも、汚いからお腹を壊しちゃう」 「平気さ。司のせいで腹を壊すなら本望だ」  再び秘所に舌が触れる。刀は大げさなくらい、びちゃびちゃと舐め続けた。司の顔が恥ずかしさで紅潮してくる。  どれくらい時間をかけたのか。指がスムーズに入るようになった頃、刀は一転して真剣な顔つきになった。 「これから司の中に入れる。痛かったら止めるから、必ず言うんだぞ」  あまりにもの気迫に司は何度も頷いた。それを合図に刀は挿入を始める。すぐ体に痛みが走り、司は思わず腰を引いた。 「痛いか?」 「だ、大丈夫です」  今ここで一つにならなければいけないと思った。刀のためにも、自分のためにも。止めてしまえば、二度とチャンスは無いような気がした。それでも、痛みは打ち消せない。顔に現れていたのだろう。刀は動きを止めた。 「息を吐くんだ。体が緩んで楽になるぞ」  言われたとおりに、入るタイミングで大きく息を吐く。確かに、少し痛みが和らいだ気がした。 「奥まで入ったぞ。俺たち一つになれたんだ」  嬉しそうな表情で刀が抱きしめてくる。司も笑顔を浮かべ、ありったけの力で抱き返した。刀の腰がゆっくりと動き始める。 「こんなに気持ちいいの初めてだ……」  痛いのは相変わらずだったが、自分の体で刀が喜んでくれるのを、司はこの上なく幸せに感じた。愛おしげに刀の髭に覆われた頬を撫でる。 「もう、ここになんか来るなよ。司を誰にも触らせたくないんだ」  刀の額に汗の粒が浮かぶ。司はそれを手で拭い、自分の顔に塗りつけた。ターペンタインの香りが広がる。 「可愛いことしてくれるじゃないか。堪らないぜ」  刀の腰の動きが早くなる。いつしか痛みは快楽へと変わり、司は声を上げていた。刀が司の一物を掴んで扱き出す。 「そろそろ限界だ。一緒にいこう」  手の動きが早くなるにつれ、司は「先生、先生!」と喘ぎながら、逞しい体にしがみついた。 「ダメだ。いっちまう。うぁああ」  刀の体が強張る。そして、ゆっくりと司の体に崩れ落ちていった。司もまた漏らしたらしい。腹に触れると、ねばねばした液体が指先に絡みついた。  しばらく二つの呼吸だけが響いていた。やがて、刀が顔を上げて司を見下ろす。 「俺、幸せだ。司はどうだ?」  幸せじゃないと言うのは、嘘だと思った。目の前にある髭面の顔が、とても愛おしい。 「自分の気持ちを偽るのはこれで終わりだ。寂しい時は素直に甘えろよ」  答えを待たずに刀が呟く。二人はその後も、司の塾の時間が来るまで、飽きもせずに抱き合っていた。 ※  「マスカレード」を出て、路地裏を二人で歩く。刀が5cm低いのは変わらない。けれども、今は恥ずかしさを感じなかった。 「俺は、あのキャンバスに司を描きたい。もちろん、司が良ければだが」  司は迷っていた。生徒会の仕事や塾で忙しいからではない。自分にそこまでの価値があるのか自信が無かった。この先、何年も残るかもしれない絵。 「気づいてないかもしれないが、司はいろんな表情を持っている。俺は、それを余さず描きたいんだ」 「いろんな表情?」 「そう。まるでグラデーションのようにな」  弾んだ声で言われて、司は自分がどんな表情をしているのか、絵を通して見てみたくなった。 「いいですよ。ハンサムに描いてくださいね」 「もちろんだ」  手のひらを差し出され、釣られて握り返す。刀は眩しい笑顔をしていた。それくらい絵が好きなのだろう。司は思わず目を細めた。  表通りに出て、二人はそれぞれ反対方向へと歩き出す。急に肌寒くなって司が振り返ると、刀はまだ突っ立ったまま見送ってくれていた。嬉しさのあまり、胸元で小さく手を振る。すると、刀は目立つほど大きく振り返してきた。  司は恥ずかしくなって、表通りを駆け出す。鼓動は早鐘のように鳴り続けていた。

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