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五月雨は緑色(1) 刀視点
ゴールデンウイークのよく晴れた昼下がり。刀の部屋には司がいた。友達の家に行くと嘘をついてまで来てくれた司に、刀は感激した。
あるのは必要最低限の家具と画材道具だけ。絵の具や油の匂いに満ちた殺風景な部屋。けれども今は、司がいるところだけ輝いて見える。決して窓から差し込む陽射しのせいだけではないだろう。
刀はクロッキーブックに木炭を走らせていた。司の表情を余さず捉えようと、何枚もデッサンを繰り返す。
意志の強さを感じさせる太く短い眉。情念を潜めたまつ毛の影。瞳は水面のように揺らいでいて、どこか落ち着きがない。顎のラインは男らしくがっしりしているのに、頬はあどけなく赤みを帯びていた。まだ大人になりきれていない、アンバランスな瑞々しさを湛えている少年の顔。どれだけ描いても、刀は飽きることを知らない。
ふと、司が欠伸を漏らした。
「……ごめん。退屈してるだろ?」
「先生があまりにも熱中してるから、止めるのも悪いと思ったんです」
そう言って司は笑みを零す。周りから無表情とも言われる、真面目な生徒会長の仮面が外れる瞬間。自分の前で素顔を見せてくれるのを刀は嬉しく思った。こらえきれずに、頬へ手を伸ばしてしまう。
「先生?」
そのまま唇を重ねてしまった。食むように貪ってゆく。司も舌を絡めて応えてくれた。
けれども、その後にやってくるのは自己嫌悪。司は忙しい合間を縫って来てくれたのに、自分は欲望に負けてしまった。
「俺って、ダメな男だな。教師としても絵描きとしても」
落ち込む刀に、司は自分から唇を重ねる。
「僕も口づけをしたかったんです」
そして、いたずらっ子のように笑う。刀も釣られて笑ってしまった。
「ありがとよ。それじゃ、司の期待に応えなきゃいけないな」
今度は刀がいたずらっ子のような表情になった。先ほどよりも距離を詰めて、何度も司の体に触れる。そのたびに司の顔は快楽に歪み、刀の絵心を刺激した。
「もっと、司のいろんな顔を見せてくれ。俺だけに」
「先生、絵は……」
刀は司の着ているものを脱がす。次第に露わになる肌。
「触らなきゃ分からないこともあるだろ?」
小柄な体で、大柄な司を精一杯包み込む。窓から覗く太陽は、そんな刀を笑っているようだった。
※
司が腕の中で眠っている。風邪を引かないように、刀は毛布をたくし上げた。無防備な寝顔。そばで見られるのをこの上なく幸せだと刀は思った。
あの日。誰でも良かったはずの場所で、司は刀を受け入れてくれた。戸惑いながらも、強引な欲望を拒まなかった。
司がくれたのは快楽だけじゃない。「自分という人間を受け入れてくれる」という、何年も忘れていた安らぎ。
「俺たちは似ているのかもしれない……」
刀も誰かに認められたくて、必死に居場所を探している。 だからこそ、司の優しさを他の誰にも触れさせたくないと願ってしまうのだ。
ふと、司の手が何かを探すように宙を舞い、刀の手のひらがしっかりと握る。
「俺ならここにいるぜ」
その後も刀は、司が起きるまでずっと寝顔を見つめていた。
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