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家族になろうよ(3) 刀視点
「そういや、北本が亡くなってから11年経つな」
ふと刀が口にした名前に、3人は記憶をたどるような顔をする。
「そう言えばいたな。俺たちよりも背が高くて、ちょっと神経質で」
今まで忘れていたかのような本庄の口ぶりに、刀は内心腹を立てる。かつては俺たちの仲間だったのに。
4人組は最初5人組だった。北本 薫 。刀と同じく美術を専攻していて、彫刻の制作に情熱を注いでいた。
一目惚れだったと思う。オリエンテーションで顔を合わせてグループに誘われた。北本がいなければ、一匹狼な性格の刀は加わっていなかっただろう。
今でも鮮明に思い出せる。笑った顔、怒った顔、悩んでいる顔。そして、友情のふりをして触れ合ったぬくもりや、夏の海で見た水着姿も。
「熊谷は北本と仲良かったもんな」
小川がどうでもいいことのように呟く。他の3人からすれば、少し仲が良いくらいにしか思われていなかったのだろう。
けれども、実際には違った。刀が一方的に北本を好きになり、何かと手助けしていた。アルバイトに熱中していた北本に、刀がノートを貸してあげたこともあるし、時には身銭を切ったこともある。
それでも、最後まで自分の想いは言えなかった。嫌われるのが怖かったし、大学という小さな世界の中で、居場所を失くすのは避けたかった。
そして4年生になり、就職活動や卒業制作で顔を合わす機会が無くなった頃、北本は突然死んでしまった。下宿先で一人寂しく。刀は自分が一番近い友達という自負があったので、しばらく食べ物が喉を通らないくらい落ち込んだ。
「それにしても、あの時はビックリしたよな」
吉見の言葉に他の2人が笑い出す。刀はビールが苦いふりをして顔を顰めてみせた。4人で親族と一緒に部屋を片付けていた時、棚の奥からゲイ雑誌を見つけてしまったのである。刀は後悔した。もし、自分が素直に気持ちを打ち明けていれば、北本ともっと親密になって、一人で死なせはしなかったのに。
その時、3人の誰かが言ったのを覚えている。
「俺たち、ホモと仲良くしていたのかよ。気持ち悪い」
刀は、ヘラヘラと笑うしかできなかった自分が悔しかった。今だって
「おまえたちの目の前にホモがいるぜ。笑えよ」
と言ってやりたい気分になる。
それ以来、刀は誰かを好きになるたび、必ず告白してきた。もちろん、拒絶されたり嫌われたりすることもあったが、素直な自分に満足した。そして、ようやく司にたどり着けた。もし、自分より背が高いという理由で遠慮していたら、今も後悔は消えずに北本の話で怒り出していたかもしれない。
「薫。俺は今、幸せだよ」
刀は、そう言える自分に少し救われたような気がした。
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