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家族になろうよ(4) 刀視点

 刀たちは小川の行きつけのスナックにいた。雑居ビルの中にある広めの店。奥にはステージがあって、カラオケを歌えるようになっている。  小川はママと話し込んでいるし、本庄と吉見は2人のホステスと、それぞれ盛り上がっていた。刀だけがポツンと取り残されたように、一人でぼんやりと皆の様子を眺めている。  司は今頃、何をしているのか。こんな化粧の匂いが漂う店より、あいつと自分の匂いで満ちた部屋に戻りたかった。刈りたての若草のような匂いとターペンタイン。隙を見てスマホを取り出す。新着のメッセージは無かった。せめて、保存した司の画像でも見られたら慰めになるのに、あんな話になった以上、ここでは誰にも見られたくなかった。  やがてホステスたちにおだてられて、友達は次々とマイクを取る。精一杯格好つけて甘いラブソングを歌う本庄。受けを狙いに女性アイドルグループの歌をチョイスした吉見。ママとデュエットする小川。三者三様だった。 「お兄さんの歌も聞きたいわ」  ホステスが甘い声で迫り、刀の自慢の髭を撫でながらマイクを渡す。「やめろ、触っていいのは司だけだぜ」と背筋が粟立つのを感じながら、学生時代からの十八番をリクエストした。  ステージに立つ。イントロが流れ、モニターに曲のタイトルが表示され、どよめきが巻き起こる。 「なんだよ、熊谷。また、これか」  小川が、からかうような口調で言う。刀は苦笑いを浮かべた。人前で歌うのは得意じゃない。けれども、この歌は大好きだった。  1番を歌い始める。この歌詞、まるで俺と司みたいだな。そんなことを考えていたら、次第に涙声になってきた。  俺たちは世間でいう当たり前の家族にはなれないかもしれない。けれども、司とだったら、どんなことも越えられるし、生きていけるような気がした。  ボロボロと大粒の涙がとめどなくあふれる。最後は声にならなかった。そして、曲が終わり、しばしの沈黙。居合わせた誰もがどう反応すれば良いのか困っているようだった。 「俺も歳取って涙もろくなったな」  マイクを通して照れ隠しをする。吉見が「熊谷、早く彼女と結婚しろ!」と野次を飛ばした。席に戻ってからも、ママやホステスを交えて刀の恋愛話になる。女性たちは、相手の都合を考える刀に好感を持ってくれたが、年齢を知ると 「やっぱり早く結婚した方がいいんじゃない? あんまり歳を取られても……ね?」 と別の視点から急かしてきた。男たちも 「そう。勃たなくなってから後悔しても遅いからな」 と酒の勢いで品の無いことを言ってくる。次第に刀の気持ちが揺らいできた。  刀が司と出会ったのは「マスカレード」だ。肌を重ねて意気投合した。今でも週に一回は求め合っている。体ばかりが先走って、心がどれくらい通じ合っているのか。いつか体が衰えた時、同じように司を喜ばせられるか。そう考えると、刀はだんだん塞ぎこんでいくのだった。  4人で4本のボトルを空けてスナックを出た。すっかり酔いが回って体がフラフラする。東京は空が白み始めていた。  刀が心の中で別れの言葉を準備していると、吉見が突然 「ソープ行こうぜ! この近くで良い店、知ってるんだ」 と言い出した。小川と本庄も喜んで同意する。 「何、言ってるんだよ。おめえら全員、カミさんがいるじゃねぇか」 「ソープは別腹だ。それにバレなきゃ浮気じゃないよ。な?」  吉見の言葉に他の2人も頷く。結婚したばかりなのにソープへ行くなんて、盛大な裏切りじゃねぇか。と刀は心の中で唾を吐いた。 「熊谷も行こうぜ。この時間なら早朝サービスで安いぞ」  本庄が腕を引く。それを刀はやんわりと解いた。 「あいつに悪いからな。俺は帰るぜ」 「なんだよ。東京でソープ行ったってバレないじゃないか」  本気でそう思っているなら、こいつら相当頭が悪い。司の勘は意外と鋭いのだ。 「今の俺は、あいつの色でいっぱいなんだ……他の色を混ぜて、濁らせたくねぇんだよ」  3人がポカーンと口を開ける。キザ過ぎたかもしれないが、酔っているから恥ずかしくない。むしろ、思いの丈を口にできて清々しかった。 「じゃあ、俺たちは3人で楽しもうぜ」  小川が踵を返して歩き出す。他の2人も後に続いた。どうやら白けたか怒らせたらしい。それでも構わなかった。誰にも刀の本心なんて分からないだろう。むしろ、司への想いを貫けた自分が誇らしかった。  刀も踵を返して反対方向へ歩き出す。先ほど泣きながらカラオケで歌った曲を口ずさみながら。

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