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家族になろうよ(5) 刀視点
ホテルのベッドで横になりながら、刀は迫りくる不快感と戦っていた。随分と飲み過ぎたらしい。世界がぐるぐる回って見える。まるで、出来の悪い抽象画の中に放り込まれたようだ。あと数時間もすれば、チェックアウトして飛行機に乗らなければいけないのに。
散々な一夜だった。懐かしい友達との再会であり結婚祝いでもあるのに、突きつけられたのは疎外感と厳しい現実。まるで、決められた枠に嵌ろうとしない刀が仲間外れみたいだった。かつては芸術家の卵として、誰もが自由だったはずなのに。
「司……」
やっと、その名前を口にできて刀は安堵する。眩暈の渦の中に一筋の光が差し込んだように見えた。手を伸ばせば、触れられそうな気がする。
「司はこんな俺、どう思う? ずっと愛してくれるか? 俺のそばにいてくれるか?」
司より先に年老いていく自分、世間に抗えず司のすべてを奪えない自分。司に愛されていなければ何の価値も無いような気がした。
ふとスーツのポケットに手を突っ込むと、自分の部屋の鍵に触れた。取り出して、目の前にぶら下げてみる。司が同じものを持っているという安心感。手放さない限り、いつだって帰って来てくれる。ならば……。
「俺はいつだって、司の帰りを待とう。どんなに遠く離れても、それが4年以上になったとしても」
司に帰れる場所があるという安心感を与える。刀なりの最大限の優しさだった。決して簡単な道では無いだろう。もしかしたら世界を敵に回すかもしれない。それでも……。
「上等だよ」
刀は鍵を大切そうに握りしめ、そのまま眠ってしまった。
※
午前中の飛行機で東京を離れ、まだ日が高いうちに刀は自分の部屋へ着いた。たった24時間の出来事なのに、何もかも愛おしく感じられるほど懐かしい。鍵を差し込んで扉を開ける。
「おかえりなさい」
そこには司がいた。誰よりも逢いたかった顔。嬉しそうに笑みを浮かべて、刀を迎えてくれる。
「司、どうして……」
「僕がいると先生が喜んでくれると思って、来ちゃいました」
そう言って、司は首をかしげる。その仕草が可愛くて、刀は荷物を放り出し、ありったけの力で抱きしめた。
「……先生、どうしたのですか?」
刀は司の肩に凭れて泣いていた。こらえようとしても、とめどなく涙があふれてくる。
「ごめんな。俺、司をずっと離したくない。どうすればいいか分からないけど、離したくないんだ」
泣きじゃくる刀の頭を、司が優しく撫でる。大人なのにみっともないと自覚しつつ、手のひらのぬくもりに安らいでいる刀がいた。
「僕はどこにも行きませんよ」
優しい声が耳をくすぐる。その場しのぎの嘘だと分かっていても、刀にとっては十分救われた。
「さあ、お茶でも飲みましょう。東京で何があったのか聞かせてください」
司の言葉に促されて刀は涙を拭い、二人で食べようと空港で買ったゴーフルを広げた。お茶を用意しようと立ち上がった司のズボンから合鍵が転げ落ちる。
「ん? これはなんだ?」
拾った刀が目の高さに持ち上げると、そこにはシーサーをモデルにしたキャラクターのキーホルダーがぶら下がっていた。
「僕が買ったんです。先生に似て可愛いでしょ?」
自分がシーサーのような顔をしてるなんて思いもしなかったが、確かにそのキャラクターは可愛かった。
「司の目に映る俺は、こんな顔をしているんだな」
刀は、ペットボトルのお茶をコップに注ぐ司に口づけをする。
「お茶、零れちゃいますよ」
「構わないさ」
ここは二人だけの部屋。誰にも邪魔できない神聖な場所。司に触れているだけで、刀は東京での辛い思いをすべて忘れられそうな気がした。
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