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ジャスト・フレンド(1) 佐伯視点 性描写有

 12月にもなると、街はクリスマスを控えて賑やかになる。イルミネーションで彩られたメインストリートを、佐伯は一人で歩いていた。司が隣にいてくれたらいいのに。そう願わずにいられない。  ふと子どもの頃を思い出す。プレゼントは何が欲しいか聞かれるたび、佐伯はいつも 「僕ね。『友達』が欲しいんだ」 と答えて周りを困らせていた。  資産家の息子である佐伯は、皆と違う生き方をしてきた。何不自由ない生活は心に余裕をもたらし、感情をむき出しにして争う必要もない。だから、周りが泥臭く汗まみれになったり、なりふり構わなかったりするのを下品だと思ってきた。  これでは、両親の力で「友達」を宛がわれても、分かり合えるはずがない。気がつくと、佐伯はいつものけ者にされていた。けれども、それを残念だと思ったことはない。生きる世界が違うのだと、自分に言い聞かせていた。  運動神経に恵まれたおかげで、学生の頃はスポーツに打ち込んできた。周りと競争するのは興味がなく、自分の記録を伸ばすことだけが唯一のやりがいだった。彼のスポーツ人生は、いくつものトロフィーやメダルで彩られているが、こんなもの何の価値もない。この鍛え上げられた肉体こそ勲章だった。  そんな佐伯にとって、司との出会いはまさに晴天の霹靂だった。最初に見かけたのはシトロエンで校門を通り抜けた時。髭を生やした小汚い生活指導の教師と話す姿。佐伯は一目で、その二人が自分の仲間だと見抜いた。どんなに男らしく振る舞っても、どこかなよなよした仕草は隠せない。  そんな司が生徒会長だと知って、なおのこと興味を持った。しかも成績優秀。完璧でありながら男が好きだという歪みを抱えている。それは佐伯に通ずるものがあった。彼と「友達」になりたい。その時から、佐伯は司のことばかり考えるようになった。  着任してからは、爽やかな見た目と人当たりの良さのおかげで、瞬く間に周囲の信頼を勝ち取ることができた。なのに、司だけは自分に靡いてくれない。あの熊谷という小汚い教師に心酔しているのが気に入らなかった。  熊谷こそ、感情剥き出しで汗まみれでなりふり構わないという、佐伯にとって忌み嫌うべきタイプの人間である。何故、自分と似ているはずの司が熊谷に惹かれているのか、佐伯は理解できなかった。  初めて、美術室で熊谷のクロッキーブックを見た時の衝撃は今も忘れられない。すべてが司のデッサンで埋め尽くされていた。恍惚の表情を浮かべているものもある。手を出していなければ見られない顔だろう。何故これを隠さずに堂々と出しっ放しにしているのか。まるで見てくれと言わんばかりに。  もちろん、熊谷が教師でありながら司に手を出していることをバラせば、追い出すのは簡単だ。ただ、司だって退学は免れない。それだけは避けなければいけなかった。  幸い、司はまだ少年に過ぎない。両親の信頼さえ勝ち取れば、意のままにするのは難しくなかった。そして、その時は意外と早くやって来た。司が投げなしの小遣いを貯めて買ったゴーギャンの画集を拒むという熊谷の愚行。  司をシトロエンに乗せ、横顔に口づけを落とし、両親にも会えた。それからは学校でも私生活でも、司をそばに置くことができて満足だった。司が自分に抱擁されただけで絶頂に達してしまったのは、嬉しい誤算だったけれども、これで揺るぎない関係になれたと思った。  まさか、熊谷が自慢の髭を剃ってまで司を取り返しにくるとは予想だにしていなかった。さらに肖像画まで描くなんて。  完成した絵に、佐伯は圧倒された。司をただ美しく描くのではなく、業や汚れまで包み隠さず浮かび上がらせている。悔しいけれども、愛情の深さを認めざるを得なかった。自分には司をここまで表現する術がない。  司を強引に奪ってしまうこともできなくはなかった。自分の方が熊谷より財力や体つきに恵まれているのだから、司はきっと夢中になるだろう。現に、抱擁だけで絶頂に達したのだ。  ただし、それは最後の砦だった。自分と熊谷を差別化するための。今、実行に移せば代償はあまりにも大きい。資産家の跡取りという盤石な未来さえ失ってしまうだろう。あと4ヶ月。佐伯は司の卒業が待ち遠しかった。  佐伯は行きつけのバルに入る。あいにくカウンターがふさがっていて、テーブル席しか空いていない。料理を待つ間、誰も座っていない向かいの席をじっと眺めていた。店内には聞き覚えのあるクリスマスソングが流れる。 「司、いつかは君と『友達』になりたい……」  それが佐伯の望むクリスマスプレゼントだった。 ※  食事を終えた佐伯は、自分の部屋に戻ってきた。ソファとテーブルしかないガランとした部屋。暖房をつけっぱなしにしたせいか、少し汗ばむくらいに暖かい。  寝室で着ているものを一つずつ脱ぎ捨てる。次第に鍛えられた肉体が剥き出しになり、浅黒い肌からは獣の匂いが放たれた。最後の一枚も脱ぎ捨てる。そそり立つ一物は、司の慰めを求めて涙を流していた。  佐伯は自分自身を姿見に映す。どこから見ても完璧な体躯。けれども、あと1ピース足りない。裸で寄り添う司の姿が。  ベッドに横たわり目を閉じる。そして、枕元に置いてあった汚れた下着を鼻に宛がった。かつて、司が漏らした時に履いていた下着。まだかすかに匂いが残っている。青く生臭い栗の花の匂い。  空想の中では自由だった。存分に司の体へ触れ、舌で味わう。そのたびに司の喘ぎ声が耳元で聞こえるようだった。やがて、佐伯は司の汗まみれの体を抱き寄せ、秘所に破裂しそうな分身を突き立てる。もう我慢の限界だった。 「司、好きだ。愛してる!」  昨日も出したはずなのに、それは大量に迸り、佐伯を汚した。自分の体臭と混じり合い、強烈な雄の匂いを放つ。 「司、君は私のものだよ……」  独り遊びの後は、ただ体が冷えてゆくだけ。今では素肌に残る白濁した汚れが、ただ鬱陶しいだけだった。 「シャワーを浴びなければいけないな」  大きくため息をつくと、佐伯はベッドから起き上がった。司の汚れた下着はそのままに。

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