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心を開いて(2) 刀視点 性描写有

 翌日、刀は朝から進路相談室に籠り、片っ端から求人票を出している企業に電話をかけていた。退学した生徒だが、根は真面目なので紹介したいと。  しかし、最初は乗り気だった企業の担当者も、相川の名前を出した途端「その子はちょっと……」と尻込みしてしまう。どうやら、相川の悪評はこの小さくもない街の中に広まっているらしい。  もう何件断られたのだろう。電話をかけ終えた求人票が薄高く積み上がってゆく。もしこれが司だったら、1件目で決まっていただろうにと、刀はため息をついた。  今朝になって、司からメッセージが返ってきた。昨日は連絡できなくてごめんなさいと。それに対して刀は、ずいぶんとお楽しみだったんだろう? と返した。軽い冗談のつもりだったのに、怒っていると思われたのか、それっきり返信は来ない。  いつもの刀なら苛立ちを露わにしていたかもしれない。けれども、今は諦めの方が強かった。昨日、相川に抱かれたせいかもしれない。優しさのかけらもない抱き方だったのに、刀の体には確かに未知の感傷が刻み込まれていた。今も胸を震わす、甘くて切ない余韻。  あわよくば、もう一度抱かれたいという気持ちを振り切って、刀は次の企業の求人票を見た。かなり前から募集をかけているのだろう。他の求人票と比べると端の方が色あせている。確かに仕事の内容の割に、待遇は良くなさそうだった。これでは教師も生徒に紹介しようとは思わないかもしれない。だが、今の相川は選り好みをしている場合ではなかった。  電話に出た担当者のぶっきらぼうな態度から、ブラック企業の匂いがぷんぷんする。刀は、何度もキレてしまいそうになるのを堪えながら、相川について熱弁をふるった。  担当者は言う。 「そういう生意気な生徒なら、こっちも教育のやりがいがある。引き受けようじゃないか」 「本当ですか?」 「本当だとも。一度その生徒を連れてきなさい」  刀はスマホに向けて低く頭を下げ、その申し出を有難く受け入れた。早速、相川に電話をする。まだ寝ていたのか、眠たげな声が返ってきた。 「いつまで寝てるんだよ。もう昼過ぎじゃねぇか」 「いきなり説教かよ。うるせえな。また犯してやろうか?」  その言葉に刀の体が甘く疼く。声が上ずりそうになるのを必死で堪えながら、雇ってくれる企業が見つかったと告げた。 「本当か? こんなに早く見つかるなんて、さすがホモ野郎だな」  電話口でも声が弾んでいるのが分かる。刀は誇らしげな気持ちになった。 「さっそく顔合わせをするぞ。あと1時間もしたら迎えに行くから支度をしてくれ」 「そんなに早く行くのかよ。かったるいなぁ」 「何、言ってるんだ。彼女や子どものためだろ」  そう窘めて電話を切る。大きく息を吐くと、刀は学校に年休を申請して外に飛び出した。 ※ 「え、相川が断った?」  次の日。学校にかかってきた電話を受け取った刀は、思いがけない相手の怒った口ぶりに恐縮した。話によると、昨日の顔合わせで出勤日を決めたのに、帰った後で相川から断りの電話が入ったという。  相手は怒り心頭で、もう刀の学校には頼まないと、半ば叩きつけるように電話を切った。当然だろう。やっと決まった求人を無下に断られたのだから。事情を知った就職担当の教師や校長にも、勝手なことをするなと怒られて、散々な一日だった。  やっと解放された頃には、すっかり暗くなって帰る時間になっていた。部屋にたどり着いてから、刀は相川に電話する。けれども、一向に出る気配はない。おそらく、パチンコに夢中になっているのだろう。あり余る怒りを存分にぶつけたかったのに。  仕方なくメッセージを送る。何時でもいいから俺の部屋に来いと。音を上げるまで説教してやるつもりだった。逆らうなら一発かましてもいい。もう、教師と生徒ではないのだから。  ふと、返り討ちに遭ったらと、不安が胸を過る。そして、こないだのように乱暴されたら……。そう考えただけで、刀は鼓動が激しくなるのを感じた。俺、しっかりしろと、頬を叩いて落ち着かせる。今は教師として、相川に分からせてあげなければいけないのだ。それでも、相川がやってくるまで、狭い部屋の中を落ち着きなくうろうろしていた。  ようやく相川が訪ねてきたのは、夜も更け始めた頃だった。入ってくるなり 「ああ、負けた。負けちまったぜ」 とパチンコでの負けを嘆く。刀はそんな相川の胸倉を掴んだ。ジャンパーの隙間から、愛用しているローズマダーの丸首シャツが見える。 「おまえ、俺が紹介した仕事を断ったそうだな」  相川は驚きもせず、当然だと言わんばかりの鋭い目つきで刀を睨む。 「ああ、そうさ。あんな安月給で、偉そうな社長にこき使われるなんて、やってられっかよ」  刀は相川の横っ面に軽いジャブを入れる。寸でのところで相川は躱し、逆に刀の拳を掴んだ。 「何しやがる!」 「俺がどんな気持ちで、おまえの仕事を探したのか分かっているのか? それをいとも簡単に踏みにじりやがって」 「うるせえ、少しは俺の気持ちも考えろって言ってんだ」  グッと腕を引いて、相川の手から逃れようとするが、掴む力は強くなるばかり。刀の額に汗が滲む。 「そんなんで父親になれるのかよ。この弱虫が」 「なんだと……」  刀の挑発は相川に火を点けたらしい。相川に突進されて、刀は押し倒された。敷きっぱなしの万年床。相川の手が刀の黒いジャージに伸びる。 「生意気な口を聞きやがって。ホモ野郎の癖に!」 「本当のことだろうが」 「うるせえ、うるせえ!」  相川が刀の着ているものを脱がしにかかる。ジッパーが下ろされ、Tシャツが捲られ、ズボンが脱がされる。抵抗しなければいけないのに、刀は力が入らなかった。 「や、やめろ、相川。落ち着け」 「ふん、おまえが悪いんだぜ。今さら遅いんだよ」  刀だけが素っ裸にされる。蛍光灯が剥き出しの体を艶めかしく照らした。 「明るいところで見ると、汚ねぇ体してるな」  相川が軽蔑したように薄ら笑いを浮かべる。刀は全身を赤らめて 「頼む、見ないでくれ……」 と体を捻る。もはや、先ほどの威厳はどこにも無かった。 「これが欲しいのか?」  相川がズボンから引きずり出したものを刀の口元に宛がう。それはすでに屹立していて、先走りを流していた。こんな時なのに、刀は相川が自分で興奮してくれていることに歓びを感じていた。顔を動かして口に頬張る。 「おら、歯を立てるんじゃねぇぞ」  相川は腰を動かし、刀の喉奥まで突っ込んでくる。そのたびに刀はえづいた。かつて堂々と渡り合った教え子に蹂躙されているという屈辱。それでも体は正直で、刀の股間は痛いほど漲っていた。 「こんな目に遭ってるのに興奮してるのかよ。変態だな」  相川は刀の口から一物を引き抜き、秘所に宛がった。愛撫をされていないそこは、まだ固く閉ざしたまま。また痛い目に遭うと分かっているのに刀は拒めなかった。ただ、口だけで 「嫌だ、嫌だよ……」 と抵抗してみる。  相川は何も聞き入れずに挿入を始めた。メリメリと音がして、何かがプチンとはじけて、奥まで入ってゆく。痛いのは変わらない。ただ、嬉しさが全身を駆け巡っていた。まったくどうしてしまったんだ俺、と刀は自分の変化に戸惑う。  毛むくじゃらの中年を犯しているという現実を見ないように、相川は目を閉じて一心不乱に腰を動かしていた。刀も自然と自分の一物に触れて扱いてしまう。 「おお、締まるぜ!」  腰の動きが早くなり、摩擦熱が強くなる。押し寄せる痛みの中で刀は終わりが来るのをひたすら待った。 「ダメだ、出すぞ」  そう言って、相川の動きが止まる。ああ、中に出しているのだな、と刀は感じた。同時に自分の一物からも大量に同じものが噴き出す。  抜かれるなり、悪臭が狭い部屋中に広がった。今日は明るいから、きっと相川の目にも汚れが見えているだろう。すかさず刀は枕元に置いてあったタオルで、きれいに拭った。それでも匂いは消せない。  我に返ったのか、相川は「帰るぜ」とだけ言い残すと、一物をズボンの中に仕舞って部屋を出てしまった。全裸の刀だけが一人取り残される。シーツに広がる赤い染み。また軟膏を塗らなければ、と立ち上がって探す。  刀は知らなかった。抱かれてしまうと、体が冷えても心は燻ってしまうことを。もう服を着なければ風邪を引くのに、相川の抱いた跡を指でなぞってしまう。  不意にスマホに手が伸びて、司にメッセージを送ろうとした。今すぐ会いたいと。けれども、司が今の自分を見たら何と思うだろう。こんな惨めな姿は見せられなかった。そして、今の刀は甘えん坊の司を求めていない。欲しいのは荒々しくもぶっきらぼうなぬくもり。 「寂しいな……」  刀の目からとめどなく涙があふれ、しばらく嗚咽が止まらなかった。

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