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相変わらずな僕ら(3) 司視点 性描写有

「……なるほど。熊谷先生は浮気した挙句、ウケに転じてしまったわけだ」  佐伯の冷めた声が、広いスイートルームでやけに響く。 「そんな身も蓋もないことを言わないでください」 「だって、本当のことだろ? 司はそれでいいのかい?」  良いわけがなかった。甘えてくる刀はもちろん可愛いが、自分が甘えられないのは精神的に堪える。 「熊谷先生が司に求めているのは、自分を甘やかしてくれる『保護者』じゃないのかな?」  佐伯の例えに司はフッと笑う。確かにこのままでは、あらゆる面において刀の保護者になってしまいそうだった。 「やはり司には私が相応しいのだよ」  そう言って、佐伯は司の肩を抱く手に力をこめる。刀ほどではないが、じんわりと温かい。うっかり甘えてしまいそうだった。 「我慢はいけないよ。今の君を癒せるのは私だけなのだからね」 「でも、さっき出したばかりだし、汚れていますよ」 「もちろん、シャワーを浴びればいいさ。この部屋には何でもあるのだから。それに……」  業を煮やしたように、佐伯は司をソファに押し倒した。 「君にはこないだの貸しがあるからね」  唇が重なる。久しぶりに体の重みを感じて、司は胸がときめくのを感じた。これが刀だったら、そう思わずにいられない。 「私が欲しいんだね。目がトロンとしてるよ」  佐伯に体を起こされて、シャワールームへと連れていかれる。もう後には引けなかった。 ※  浴室で、司は佐伯に丁寧に体を洗われていた。まるで刀を抱いた跡を消すように。 「くすぐったいですよ」 「久々に君の体に触れて嬉しいんだよ」  シャワーに濡れながら、佐伯が唇を重ねてくる。 「さあ、これくらいでいいね。ベッドで存分に君を抱くよ」  佐伯に背中を押されて浴室を出る。ふかふかのガウンを羽織って寝室に入ると、そこには部屋と同じく広々としたダブルベッドがあった。  ガウンが佐伯の手によって脱がされる。露わになった司の裸体を、佐伯は力の限り抱きしめた。手のひらが佐伯の一物に導かれ、握らされる。硬くて熱い。  そのままベッドへと横たえられる。すぐに佐伯が重なって、司に口づけの雨を降らせてきた。 「私がどれだけ司を愛しているか分からせてあげよう」  背筋がゾクッとするほど低い声と真剣な眼差しに射貫かれて司は覚悟を決める。なのに、体は歓びに震えていた。刀への後ろめたさはこれっぽっちもない。 「僕は誰かに抱かれたかったんだ……」  今さらながら痛感する。体の重み、きついくらいの抱擁、シーツに触れてずっと温かい背中、これが欲しかったのだ。 「司は何もしなくていい。私に任せるんだ」  佐伯に何から何までお膳立てされ、あっという間に腰が持ち上げられ、秘所が晒される。いつから隠し持っていたのか、そこにローションを塗りたくられた。 「もう我慢できない。触っているだけで漏らしてしまいそうだよ」  いきり立ったものが宛がわれる。まるで司が刀にする時みたいに、ゆっくりと慎重に中へと入っていった。こんなにも気を遣われて、僕は恵まれているんだなと、つい佐伯を見つめてしまう。 「そんなに真顔で見つめて、どうしたんだい?」 「あ、あの……(おさむ)さんって優しいんだなって」  咄嗟に出た言葉に、佐伯が笑みを浮かべる。 「伝わってくれて嬉しいよ。私は司にだけ優しいんだ」  他の誰かが相手だったら、相川みたいに乱暴に犯すのだろうか。司は怖くて聞けなかった。 「ああ、もう我慢できないよ。司を抱いてると思ったら、気持ち良くなるのも早いな」  佐伯の腰の動きが早くなる。司も気持ち良さのあまり、自分から腰を押しつけていた。 「司、君の中に出すよ。しっかり受け止めるんだ!」  そう言って、佐伯は動きを止めた。獣の匂いが一段と強く香ったような気がして、司もまた、触れられていないのに、腹の上へピューピューと噴き出していた。 「どうだい。久しぶりに愛された気分は」  佐伯が勝ち誇った顔を見せて問いかける。そうだろう。司は触れられていないのに、匂いに反応して漏らしてしまったのだ。  確かに満足した。一方で、このように刀を愛すればいいのだな、と学習している自分に気づいて顔を曇らせる。それを佐伯に話した。 「まったく、司の真面目さには困ったものだね。でも、私はそこが好きだよ」  後始末を終えた佐伯が大の字になって横たわる。左腕は力強く司を引き寄せ、脇の辺りに鼻先が来るようにした。獣の匂いを間近で感じて、司の胸がどぎまぎする。 「司が私とこうしているところを見たら、あの男も目を覚ますんじゃないかな」  それはあまりにも劇薬過ぎた。怒りのあまり、あるいは自信を喪失して、司を見限ってしまうかもしれない。 「それならば、今度こそ私のものになればいい。『友達』から『恋人』になるだけだよ」  佐伯が機嫌よく口笛を吹く。司は心地良い疲れの中で、次第に瞼が重くなるのを感じた。 「攻さんは……もしウケになったらタチに戻れますか?」  途切れ途切れに問いかける。 「そうだな。快楽を他人任せにするなんて考えられないけど、司が望むなら一度だけ受け入れて、その後は普段どおりに戻るよ。決して君に無理をさせたりしない」  その言葉に安心して、司は眠りに落ちてしまった。 ※  ずいぶんと眠ってしまったらしい。佐伯に家まで送られる頃には、日が暮れ始めていた。 「すっかり長居してしまいましたね」 「むしろ私には短いくらいだよ」  佐伯は晴れ晴れとした表情でハンドルを操る。 「また抱かれたくなったら、いつでも連絡すればいい。すぐに駆けつけるからね」 「あんなに遠く離れているのに……」  司は佐伯が赴任している街に思いを馳せる。今から向かっても着くのは夜になるだろう。 「大切な『友達』のためなら苦にもならないさ」  交差点で赤信号に変わり、シトロエンはゆっくりと止まった。大型商業施設の前。いくつもの家族連れが横断歩道を渡る。 「あ、あれは……」  司は見覚えのある姿を指差した。佐伯が目を向ける。 「相川です」 「ああ、熊谷先生の浮気相手だね」  相川は、しばらく見ないうちに大人びたような気がした。すっかり、父親の顔をしている。 「熊谷先生が好きになるのも分かるよ。目つきが一緒だ」  そんなものかと、司は相川を見つめる。相川は横断歩道の途中で何かに気づいたように立ち止まり、シトロエンの方を向いた。助手席に座る司を見るなり、目を見開いて驚く。何か言いたそうな顔をしたが、すぐ信号が点滅して反対側の歩道へ渡ってしまった。青信号に変わって、シトロエンが再び動き出す。 「気づかれちゃったみたいです」 「別に構わないだろ」  司はもう一度、反対側の歩道に目を向けた。けれども、相川の姿は人ごみに紛れて見つけられなかった。

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