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時に愛は(1) 司視点 性描写有

 土曜の昼下がり。司は自宅のダイニングテーブルで、両親と向かい合っていた。ソファには担任と校長もいる。それは夏休みの五者面談を思い出させた。けれども、ここは学校じゃない。司の逃げ場はどこにも無かった。 「私たちは東京の大学に行きなさいと言ってるのよ。どうして分かってくれないの」  母親が涙声で司を責める。 「本命の大学に受かっても、金は出さないからな」  父親は腕組みをしながら、声を低めて言った。それでも司は首を縦に振ろうとしない。 「僕は働きながら本命の大学に行くよ。それで十分だろ」 「司!」  父親がテーブルを勢いよく叩く。担任が「お父さん、落ち着いてください」と宥めた。  司は、一足早く東京の私立に合格していた。本命の結果はまだ分からない。なのに、両親は東京の私立へ入学金や授業料を納めてしまった。東京へ行かせたかったというのはあくまでも表向きで、本命は刀と決めたと知っているから、行かせたくなかったのだろう。当然、司に本命の入学金や授業料を納めるだけの財力は無い。もちろん、刀にも。 「きっと熊谷先生のせいだわ。まだ洗脳されているのよ!」 「やはり病院で診てもらわなければいけないな」  両親の言葉に、司は堪らず声を荒げる。 「僕は熊谷先生が好きなんだ!」  一瞬、微妙な空気が流れた。おそらく、誰もが「好き」の意味を測りかねているのだろう。ただ、母親だけが 「どうして、佐伯先生を好きにならないの?」 と的外れなことを言う。苦笑が漏れて場が和んだところで、校長が助け舟を出した。 「弓岡君。両親もこう言ってるんだ。東京の大学に決めたらどうだい? 東京に出られるまたとないチャンスだし、入学金や授業料も快く払ってくれたんだ。他の生徒と比べたら恵まれているよ」  担任も続けた。 「アルバイトで学費や生活費を稼ごうとすると、勉強どころではなくなってしまう。それでは大学に行った意味が無いじゃないか」  司は何も反論できない。刀のそばにいたい。刀の役に立つ大人になりたい。刀が周りの大人たちに信頼されていない以上、動機としては全然弱かった。 「もう少し、考えさせてくれますか」  それだけ言うのがやっとだった。担任も校長も司の肩を叩きながら 「期待に応えるのが一番の親孝行だよ」 と、のたまう。司は固く口を結んだまま、頷きもしなかった。  夕方になり、結論が出ないまま担任と校長は帰っていった。本命の合格発表はまだ先だが、不思議と司には合格している手応えがあった。だからこそ、どうすれば良いのか途方に暮れてしまう。佐伯にメッセージアプリで相談したら 「私は司の行くところなら、どこまでもついて行くよ」 と返されてしまった。  会話の無い食事が終わり、ダッフルコートを羽織って外に出る。すぐに両親が追いかけてきた。 「こんな時間にどこへ行くの?」 「ちょっと頭を冷やしに行くだけだよ」 「本当だな? 1時間経っても帰って来なかったら、探しに行くぞ」  父親はいつものように疑い深い。どうやら刀のところへ行っても、抱いたり抱かれたりする余裕は無いようだった。  司は返事もせずに踵を返す。そして暗がりの中へと歩いていった。 ※  刀のアパートに着いて、スマホを見る。残り時間は40分。20分ですべて話さなければいけなかった。駐車場にはおんぼろの黒いセダンが停まっているし、窓からは明かりも漏れているから、部屋にいるのは間違いない。けれども、司は合鍵を差し込もうとして躊躇する。 「相川がいたら、どうしよう……」  何の約束もなく、衝動的に来てしまったのだ。念のため、身を屈めて郵便受けから中を覗いてみた。靴が二つある。一つは刀がいつも履いている汚れたスニーカー。もう一つは……。  それが何かを考える間もなく、中から甲高い嬌声が聞こえてきた。誰かの腰の動きに合わせて、規則正しく啼いている。  何が起こっているのか、すべて見なくても理解できた。このまま、扉を開けて乱入しようか迷う。それを遮るように刀の甘えた声が聞こえてきた。 「相川。俺はおまえを愛し……」  途中で口を塞がれたらしい。最後までは言わせてもらえないようだった。 「それは弓岡に言ってやれ。俺はホモになんてならないぞ」 「だけど俺、おまえがいなけりゃ……」  尻を乱暴に叩く音が聞こえる。続きは喘ぎ声に消されてしまった。  司は立ち上がって、大きなため息をつく。もうこれで十分だった。刀は自分がいなくても寂しくないだろう。不思議と涙は出ない。むしろ肩の荷が下りて楽になった。僕は一人で何を思い詰めていたのだろう。  それから20分後。司は家に帰るなり、出迎えた両親に告げた。 「お父さん、お母さん。僕は東京の大学に行くよ」

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