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時に愛は(2) 司視点

 数日後、司は近くの公園に相川を呼び出していた。間近で見る相川は大人の顔をしていて、ずっと年上に見えた。父親になって、真面目に働いているからだろう。髪の毛が少し伸びて、不良だった頃の剃り込みはもう見えない。 「こんなところに呼び出して悪かったな。でも、これを渡したかったんだ」  そう言って司は、熨斗と包装紙に覆われた箱を差し出す。出産祝いだと言って。 「ありがとよ。まさか弓岡から貰えるなんて思わなかったな。先生からでさえ、まだ貰ってないのに」  相川が喜びを露わにする。どんなに憎まれ口を叩いても、刀のことを「先生」と慕っているのが伝わって、司は寂しさを隠せなくなってしまった。 「東京の大学に行くんだってな。先生が教えてくれたぜ」  刀にはメッセージアプリで伝えていた。返事は「司の決断を尊重するよ」と、それだけ。本当はあれこれ理由をつけて、引き止めて欲しかったのに。刀は東京が嫌いなのだから。 「親がどうしてもって入学金を払ってしまったからね。僕の力ではどうにもならないよ」  刀の相川に対する想いの深さを知ったからとは言わない。 「先生は寂しがっていたぞ」  司は相川を見つめる。今の自分はジトッと濡れた瞳をしているのだろう。相川は少し後ずさりした。 「大丈夫だよ。相川がいてくれるから」 「俺はホモじゃないぞ!」 「だけど先生のこと、嫌いじゃないだろ?」  相川はしばし逡巡する。そして、少しぶっきらぼうに 「いい穴してるんだよな……」 と小声で呟いた。 「それなら安心だ。先生のこと、よろしく頼むよ」  そう言って、司は踵を返そうとする。その肩を相川が掴んだ。 「おまえ、それでいいのか? 先生が好きなんだろ」  司は儚げに微笑んで、肩を掴んだ手をやんわりと外した。 「どんなに僕が頑張っても、先生の気持ちは変えられないんだ。これ以上、頑張れないよ」  そう、自分は負けたのだ。刀が相川と最初に出会った時から勝負は決まっていたのかもしれない。一年もの間、ずっと負けを認めたくなかっただけだ。ライバルの前なのに涙があふれてくる。 「バカ、泣くな!」  不意に相川の顔が近づいて、じっと見つめ合う。そして、唇が重なった。かすかに漂うタバコの匂い。誰かに見られていると気にする余裕も無かった。  どれくらい口づけしていたのか。ようやく唇が離れる。もう司の涙は止まっていた。 「ごめん。俺、これしか慰め方を知らなくて」 「相川……」 「そんな目で見るな。俺はホモじゃないぞ!」  やっぱり相川は優しいのだ。それは子どもの頃から変わらない。 「俺がこんなこと言うのも変だけど、先生が一番好きなのはおまえだぞ」  司はきょとんとして首をかしげる。 「俺といる時だって、おまえの話ばっかりするんだ。こっちが妬けてくるくらいにな」 「そ、そうなんだ。何か申し訳ないな」  自分だって、刀に相川の話をされると少し傷つくのだ。相川の気持ちもよく分かる。 「だから自信を持てよ。先生は自分のものだって。おまえたち、きっとうまく行くからさ」  相川に励まされて、司は束の間、心が軽くなるのを感じた。何かお礼をしようとして顔を近づける。そして、相川の頬に不意打ちの口づけをした。 「な、何しやがる!」 「僕のお礼だ。励ましてくれてありがとう」  相川の顔は、ローズマダーのシャツと同じくらい真っ赤になった。 「意外と大胆なんだな。せめて唇にしてくれりゃいいのに……」 「ん、何か言ったか?」  司が尋ね返すと、相川は照れを隠すようにそっぽを向いた。 「何でもねぇよ。気のせいだ」  それでも返す眼差しは優しかった。 「必ず先生と話し合うんだぞ。約束だからな」  相川から小指が差し出される。司も遠慮がちに差し出した。 「指切りなんて珍しいな」 「先生が教えてくれたんだ。絶対に忘れないようにって」  そう言えば、初めて刀と「マスカレード」で会った時も、指切りを交わしたことを思い出した。  指が離れると、相川は「じゃあな」と踵を返して去っていった。司は遠ざかる背中に「ごめん」と謝る。約束は守れそうにない。もう刀の部屋へ行くことは無いのだから。むしろ、これで刀を心置きなく託せそうだと安心していた。

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