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中編①

「あなたに女神のご加護があらんことを。いってらっしゃい」  冒険者の身なりをした人々に向け俺は微笑む。冒険者たちは礼を言って神殿から去って行った。俺は見送るように出入り口を見ていたが、しばらくすると向きを変え大きな部屋の向かい側の壁を見つめるように立つ。そして次の冒険者が来るまで動くことはない。  時折入ってくる町の人に挨拶はするが、その場で微笑み声をかけるだけ。俺が次に動くのは、冒険者が声をかけてきて治療などを依頼するときだ。  ――そう、今日の俺は神官NPCの中に入っていた。  *  初めてのエロイベントから俺はNPC姦プレイヤーとして存分に楽しみまくり……なんてことはなく、ゲームへのログイン自体があの日から3週間ぶりだったりする。あれで満足したとか逆にトラウマになったとかそんなんじゃなくて、単純に現実が忙しかっただけだ。  仕事が忙しくて疲れを取るために寝ていたらいつの間にか休日が終わっていたり、休日に予定が入ったりでゲームにログインする時間が取れなかったのだ。予定の相手も友達だったり家族だったりと、相変わらず恋愛も性的なことも全く縁はない。  そんなこんなで3週間が過ぎ、仕事も予定も落ち着いた俺はまたNPC姦プレイヤーとしてゲームにログインした。今回選んだのは少し小さめの村の神殿の男神官NPCだ。  神官NPCは店を営むNPCよりはプレイヤーと関わる頻度は少ないが、これまた結構人気のある職業NPCなのだ。  このゲームでは1人の神官から1日1回治癒を受けることができる。HPやMPの回復、異常状態の回復など選べるのは1つだけだが、何人かの神官をはしごすればすべての状態を回復できるのだ。ゲームを始めたばかりの初心者や、MPやアイテムを温存したいプレイヤーがよく利用しているので、プレイヤーと関わる機会がそこそこあるのだ。  ここしばらくの忙しさで、NPC姦プレイはしたいけどゆっくりしたい気持ちもあった俺は、この小さめの村の神官NPCの中に入った。この村はレアではないけど職業によっては使う頻度が高い素材が取れるダンジョンがあるので、小さいけれどそれなりにプレイヤーがいるのだ。ただ、モンスターのレベルは低めだしダンジョン内で取れる素材で回復アイテムが作れるため神官の利用頻度はやや少なかったりする。  だからゆっくりできそうだし、あと神官ってなんかエロいし。聖職者が性職者になってしまうかもしれないな、なんて馬鹿なことを考えながらお祈りに来ているNPCたちを眺める。俺やNPCたちに、天井付近にある大きな窓から太陽の光が当たり、すごく穏やかだった。 「こんにちは、ようこそ」  新たなNPCや冒険者、つまりプレイヤーたちが神殿に入ってきたから、俺NPCは決められた挨拶台詞を口にする。プレイヤーたちは入り口の近くの神官NPCに声をかけた。俺NPC以外にこの神殿にはあと2人ほど神官NPCがいる。 「こんにちは、女神様に祈りに来ました」 「どうぞ、ゆっくりしていってください」  新しく入ってきた村人NPCが俺NPCに声をかけ、俺NPCが返事をした。村人NPCは部屋の奥にある大きな女神像の前まで歩いていく。  別の神官NPCに話しかけていたプレイヤーたちは少ししたら神殿から出て行った。どうやら神官1人の回復で事足りたようだ。  そしてまた神殿内は静寂に包まれる――と思ったら、カツン、カツンと足音が響いて近づいてきた。足音は俺NPCの背後で止まる。俺は壁を背にして立っているが、寄りかかっているわけじゃないので人が通れる間はある。しかしNPCはそんなところをわざわざ通らないので、足音の主はプレイヤーだ。  食材屋のときと同じ状況で、俺はドキドキし始めてきた。今日はどんな攻めプレイヤーなんだろう、と。 「ねえ」  がばり、と突然後ろから抱きしめられ、声をかけられる。視界の端で紫がかった金の髪がふわりと揺れた。 「こんにちは、冒険者様。本日はどのようなご用件でしょうか?」  俺NPCが穏やかな声で決められた言葉を紡ぐ。プレイヤーの方を向こうとするが、ぎゅっと抱きしめられているので動けない。それでもしばらくは振り返ろうとしていた俺NPCだったが、ふと体が動かなくなった。プレイヤーが設定で振り向かないようにしたのだろう。  だが、そんなことはどうでもいい。俺の心はさっき以上にドキドキしている。もしかして、いやまさか、と考えていると、システムウィンドが目の前に現れた。

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