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番外編① プレイヤーではじめまして①

 俺は必死で走っていた。ゲームの中だというのにそれはもう必死に。少ないスタミナを使い切りっては立ち止まって回復を待つ。少し回復したら、スタミナを減らさない程度で歩き、全回復したらまた走る。 (なんでっ……! こんな初歩的なことを忘れてたんだ……っ!!)  10分前にゲームにログインした俺の頭からは大事なことが抜け落ちていた。――そう、チュートリアルの存在を。スキップを連打しそれはもう超スピードでチュートリアルを終えた俺は目的の場所に向かって走り出した。走りながらシステムウィンドウで現実世界の時間を表示させる。  表示された時計に刻まれていた数字は、約束の時間から……10分も過ぎていた。  *  このゲームにプレイヤーとしてログインしていたのは何年も前のこと。ゲームに復帰してからはNPC姦プレイしか選んでなかった俺は、アバターさえ用意すればすぐに待ち合わせ場所に行けると思っていた。  余裕ぶっこいて10分前にログインし、以前遊んでいたサーバーから呼び出したアバターデータを選んでゲーム世界に降り立つ。さて移動しようかという俺の目の前に現れた、チュートリアル画面。このゲームはアバターの容姿データを保存しておけば別のサーバーでも使えるが、装備品やゲーム進行度は引き継げないのだ。  自分のアバターを動かすプレイヤーとして遊ぶのが数年ぶりだったのと、サーバーが違うことが頭から抜け落ちていたからそれはもう焦った。本来なら久々だしじっくりやっておく方がいいのだろうが、あとで確認すればいいと飛ばしに飛ばしまくる。  ようやく自由に動けるようになった俺は、攻めプレイヤーとの待ち合わせ場所の町に慌てて向かったのだった。  *  町の入り口に着くと、NPCがようこそと迎えてくれる。仮想空間だというのに息を切らしていた俺は、一度立ち止まって息を整えた。視界の端ではスタミナ最大値が増えたという通知が表示され消えていく。このゲームは行動によってステータス値が上がるシステムだ。詳しい数値を確認する余裕はないが、必死で走ったから攻撃力も防御力も初期値なのにスタミナだけ異様に高くなっていることだろう。  息が整い食材屋を目指し歩き始めるころには、約束の時間から20分も過ぎていた。もういないんじゃないかという不安で、走っていたときよりも心臓がバクバクしている。連絡先など知らないので、彼が諦めて別のNPC姦プレイヤーを選んだり、ログアウトしてしまっていたら終わりだ。  いないのが遠目でわかってしまうかも、と思うとつい俯いて歩いてしまう。どこか足取りも重い。大通りに入り、食材屋まであと少し――というところで、誰かに後ろから肩を叩かれる。  もしかして、とぱっと振り返った俺の目の前には、うっすら見覚えのあるような男性アバターのプレイヤーが立っていた。 「あーやっぱりナギじゃん! こっちじゃずいぶん久しぶりだよな? またプレイヤー始めたんだな!」 「……その声は……た、じゃなくて……えーっと、プレイヤー名なんだっけ……」 「あっぶな。|麻呂土竜《まろもぐら》・ジョーンズだよ」 「……あー、そんな名前だったな」  うっかり本名を言いそうになり、背中をバシッと叩かれる。彼、|麻呂土竜《まろもぐら》・ジョーンズ――略してマロンズは高校時代からの友達の1人だ。 「なんかすげー必死に走ってるやついんなーって見てたら、なんかナギが使ってたアバターそっくりだったからさ。ついてきて正解だったわ」 「あはは、ちょっとな……」 「なんか用事か? もしよかったらまたパーティー組んでクエスト行こうぜ。このサーバーもかなり面白いクエストあるんだよ」  マロンズは何年もずっとプレイし続け、昔プレイしていたサーバーではほとんどのクエストをクリアするほどのやりこみ系プレイヤーだ。俺も以前プレイしていたときは彼やほかの友達とパーティーを組んでいくつかのクエストを一緒にクリアしていた。  なにも予定がなければ誘いに乗ったが、今は急を要している。マロンズに向かって両手を合わせて謝った。 「ごめん、今日はちょっと待ち合わせしてて……。また今度ゆっくり話そうぜ」 「オッケー。すげー急いでたもんな。呼び止めて悪かった。じゃあなー、ナギ!」 「おう、またな!」  俺に話しかけるためだけにこの町に来たらしいマロンズは、にかっと笑うと町の外に向かって歩いて行った。彼の背中が見えなくなるころ――約束の時間からさらに過ぎてしまったことに気づく。 「やばい……もう駄目かも……」  そう呟きながらも、振り返って食材屋を目指す。店の前まで歩くと、俺が以前中に入った青年NPCがカウンターの内側に立っていた。オプションで設定をオンにする暇がなかったので、今日はNPC姦プレイヤーが入っているかはわからない。  おそるおそるあたりを見渡すが、あの攻めプレイヤーらしき姿はなかった。 「そりゃそうか……」  約束の時間に現れなかったんだからもういるはずはない。そもそも彼が一方的に告げただけなのでちゃんと約束したわけでもないのだ。  もう彼に抱かれることはないという現実を突きつけられ、思わずため息が漏れる。これ以上ここにいても時間を無駄にするだけ。一度ログアウトしてNPC姦プレイヤーで入り直すか、それともせっかくアバターを作ったのだからこの世界を満喫しようか……。

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