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居場所のはじまり6
「できた! アベルさん、味見してください」
「いいんですか?」
味見をしたけど、これで問題なし。酒とみりんはなかったけど、なんとかなるものだな。なので次はアベルさんに味見をお願いした。これを出しても大丈夫か心配だから。
「美味い! 素朴で優しい味付けですね。あんなに少ない調味料や材料でできるものなんですね」
「これをレオニスさんに出してもいいんですかね」
「旦那様のご希望ですから気にしなくていいかと思いますよ。それに何より美味いです。今度作り方を教えてください。肉じゃがが気に入りました」
ここでも男性の胃袋を掴んだみたいだ。あとはレオニスさんが気に入るかどうかだけど。まぁ、俺にできるのなんてこんなものくらいだ。でも、料理だけはなんとか出来ておいて良かった。別に料理が好きな訳ではないけれど、1人暮らしだし、大学生だからできれば生活費を切り詰めたくて自炊をしているから、一通りはできるつもりだ。
「米で作った料理酒とみりんというやつは穀物屋に頼めばできると思いますが、もしまた作ることがあれば穀物屋に頼みましょう。俺はタクヤさまの作る料理に興味があります」
「俺、料理人じゃないから家庭料理しか作れないんです。アベルさんのような人には子供が作るようなものでしょうけど」
「そんなことはないです。今日の料理を見てて、なんでもゴテゴテ使わなくてもいいんだな、と衝撃でした。色々使わないと料理は作れないと思ってましたから」
あぁ。なんか地球でいうならフランスとかあっちの方の料理だから、焼いたものにもソースかけるから調味料はかなり使うんだろうな。そんな料理を作っているアベルさんからしたら日本の家庭料理なんてびっくりする料理だろうな。
しかし、作ったはいいけど器がない。なので、ご飯は丸い器に、肉じゃがは小さなお皿に盛ることにした。でももっと困ったことに箸がない。そりゃそうだ。だからフォークで食べることになる。鮭はいいけど、肉じゃがをフォークで……。ちょっと変だけどない袖は振れない。
アベルさんと料理のことを話しているとニコラスさんが来て、レオニスさんが食事をするという。うわー出すの緊張する。そうしたら、俺が緊張しているのに気づいたアベルさんは大丈夫だと励ましてくれた。アベルさん、いい人だなぁ。こっちにいる間にアベルさんに料理でも教わろうかな。そんな他のことを考えているとニコラスさんとメイドさんがダイニングルームに料理を持って行くので、俺も食事のためにダイニングルームへと移動する。ルナがいつの間にか厨房に来ていたので、ルナを抱いてダイニングルームへと移動する。厨房まで来ていたのは、匂いにつられてだろうな。
ニコラスさんやメイドさんがテーブルに給仕してくれている間に、俺は自分の席の近くにルナ用の鮭の身をほぐしたものを置いてやった。
「いい匂いがするな」
「こんなものしか作れなくてすいません」
「それは食べてからだよ。ほう。ほんとに米を主食とするのだな。でも確かにこの料理にパンは似合わないな。さぁ食べるとしよう」
そう言うとレオニスさんは肉じゃがに手をつけた。ゆっくりと咀嚼して味わっているようだ。アベルさんは美味しいと言ってくれたけど、貴族のレオニスさんの口にあうかはわからない。俺はレオニスさんの反応が気になって自分の分に手をつけられないでいた。
俺がじっとレオニスさんを見ていると、俺を笑顔で見た。表情からすると悪くはないということだろうか。
「美味しいな。とても優しい味がする。また食べたい味だ」
良かったー。美味しいと言って貰えた。それでホッとして、やっと自分の分を食べることができる。
「タクヤのところではこんな優しい味を食べられるんだな。魚もソースを使っていない」
やっぱりそれは気になるだろうか。そうだよな、いつもソースかかってるんだもん。
「はい。焼き魚はソースを使わないでそのまま食べるんです。気になりますか?」
「いや、初めてだが食べてみよう」
なんかやっぱりメインは別のものにすれば良かったかもしれない。と今さらちょっと後悔する。なんのソースもかかっていないただの焼き鮭がレオニスさんに合うかどうかがまた気になって食事の手が止まる。ふと下に目をやるとルナはガツガツと食べている。ルナにしてみればいつもの食事だからいいけど、レオニスさんにとっては初めての食事だ。
レオニスさんはこちらもゆっくりと咀嚼して味わっている。もう心臓に悪いな。やっぱり貴族の人には、アベルさんの作るきちんとした料理の方がいいのかなと思ったところでレオニスさんが口を開いた。
「鮭というのはこんな味をしているのだな。いつもはソースがかかっているから鮭の味がどうか気にしたことがないが、これはこれでいいものだな。しかし、シンプルな分、新鮮でないと味が落ちるな」
とりあえずOKって感じか? 良かったー。
「俺の国では新鮮な魚があれば生で食べたりもします」
「生で!」
「はい。ほんとに新鮮でないとやりませんけど、わさびやしょうゆをつけて食べます」
「生で食べる文化はないな。ちょっと怖いが食べてみたい気もする。生だと、この焼いたものとは味が違うものか?」
「違いますね。生は生の美味しさがあります」
「どんな魚でも生で食べるのか?」
「いえ、俺の知ってる範囲では全部じゃないですね」
「ここ、エルドランドは海にも面しているから魚も新鮮なのが手にはいるが。そのうち生でも食べさせてくれ」
シンプルな焼き魚を食べて刺身に興味持たれちゃった。俺、捌いたことないから無理。
「申し訳ありません。俺、魚捌いたことなくて……。漁師の人とかならできるとは思いますが……」
「そうか、残念だが仕方あるまい。そのうち海へ行ったときにでも漁師に訊いてみよう。でも、このシンプルに焼いただけというのもいいものだな。タクヤの国では優しい味を食べているようでいい。またなにか作って貰ってもいいか?」
「こんな料理で良ければ」
「そうか。調味料はここと同じなのか?」
「いえ。ここにはないものもあります」
「そうか。もし必要なら作らせればいい」
えっと。ということは、これからも作る感じかな? そしたら調味料に関してはあとでアベルさんに相談してみよう。でも、とりあえず料理は気に入って貰えたみたいなのでホッとした。
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