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居場所のはじまり7

 食事を終え、洗い物をしようと厨房へ行くとすでにアベルさんが洗い物をしていた。暢気に食べてたからだ。 「ごめんなさい。残り洗います!」 「ああタクヤさん。もうあと少しだからいいですよ。それにお客様に洗わせるわけにはいきません」  やっぱり俺は客人か。そうだよな。だってニコラスさんがそう紹介したんだから。とはいえ、自分の使ったものは自分で洗いたいんだけどな。仕方ないか。せめて今度作ることがあったら、作り終わった時点で調理器具だけでも洗おう。そうすればアベルさんが片付けるものが少しでも減る。 「あのー。調味料なんですけど」  洗い物を終え、手を拭いているアベルさんに声をかける。レオニスさんが言ってくれたから料理酒とみりんを作って貰いたい。そう思って。 「ああ。作って貰いましょうか。それぞれの作り方わかりますか?」 「あ、はい」  正確に知っているわけではないけれど、なにで作られているかはわかる。だから、知っている範囲でアベルさんに伝えた。ただ、みりんに焼酎を使うし、料理酒には日本酒を使う。だから焼酎の作り方と日本酒の作り方も伝える。焼酎は米を使ったものを伝えた。だから正確には4つ作って貰うことになるけれど。まぁ、焼酎や日本酒は飲むこともできるから無駄にはならないか。 「焼酎っていうのは、米以外にもあるんですか?」 「はい。芋や麦で作ったりもします。味がそれぞれ違って美味しいですよ」 「でも、アルコールを使った調味料が2つあるのも面白いですね。ここではワインを使ったものしかないので」  アベルさんの話しから、ここにはビールやウイスキーはないんだな。ワインだけってつまらなくないかな? そう思っているとアベルさんは日本酒や焼酎に興味を持ったみたいだ。 「それぞれ調味料を作るのに使うけど、その前の段階で飲んでみたいですね。俺、酒好きなんです」  アベルさんはそう言って笑った。俺は日本酒はちょっと苦手だけど、焼酎は割れば飲める。そう話すと割って飲むと、次は割って飲むということに興味を示した。 「へー。割って飲むっていう飲み方があるんですね。そしたら割るもので味が変わりますよね。それは焼酎を用意して色々なもので割ってみたいですね」  といかにもお酒が好きな人っぽい話になってきた。俺は炭酸でハイボールにするのが好きだというとアベルさんは飲んでみたいと言う。それで炭酸水はあるのかと訊くと、あると言う。そしたら焼酎を作ったときに少し分けて貰えばハイボールにして飲めるなと思ってアベルさんも同じことを考えたらしい。 「国によってやっぱり違うものですね」  アベルさんがそう言ったとき、国が違うんじゃなくて惑星が違うんだけどなと思ったけど、それは言わないでおいた。とりあえずみりんと料理酒は頼んだから、それができたらまたなにか料理を作らせて貰おう。そう考えながら厨房を後にして、ルナを抱っこして2階の部屋へと行く。その途中の廊下を歩いているときに、チリンと小さく鈴がなった。ルナの鈴だ。揺らしてもいないのになんでだろうと思って足を止め、鈴を見ると鈴が淡い光を発した。え? まるで空気の粒が浮かび上がるように、光がゆらゆらと舞っている。なんだこれ。そしてその瞬間、空気が少し歪んだ気がした。ほんの一瞬、そこに”揺らぎ”が生まれたような、そんな気がした。もしかしたら帰れるのかもしれない。でも、そんなことを思っているうちに光は鈴に吸収されるように消えて行った。なんだったんだろう、今のは。そしてもし、ほんとに”揺らぎ”が生まれていたのなら、帰る方法はあるのかもしれない。でも、どうしたら鈴が光を発してくれるかわからない。なにがきっかけで光るんだろう。俺はそんなことを考えて廊下で足を止めている。が、腕の中のルナは暢気に俺の顔を見ると、にゃ〜と鳴いた。神社で光を感じたけれど、それはルナの鈴から発したものだったんだろうか。でも、光の大きさや色が今なんかと全然違う。今は光ったけれど、大きさとしてはほんとに小さくて鈴より少し大きいだけだった。それじゃあ俺はもちろん、ルナさえも帰れないだろう。あの神社で光っていたものは俺よりも大きな光だったし、色もハッキリしていた。そんな大きい光なんて作り出せるんだろうか。いや、その前に今の大きさの光だってどうやったら作り出せるのかわからない。それじゃあ帰れない。でも帰るのに、今見た光が必要な気がした。  

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