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貴族院の嵐2

「勝つということがなぜとんかつと繋がるんだ?」  とんかつを食べ終えたレオニスさんがそう尋ねてくる。なので俺は勝つとかつを説明した。 「俺の国の言葉では”勝つ”と”かつ”は同じ音なんです。だから試験の前や勝負の前には験担ぎでとんかつを食べたりするんです。で、どうしても通したい法案があると言っていたから。だから”勝つ”にあやかりたくてとんかつにしました」  俺がそう説明するとレオニスさんは一層表情を柔らかくした。伝わったようで良かった。 「ありがとう。実は通したい法案は前回も提案したんだ。だが時期尚早として却下されたんだ。だから今期こそは通したくてな」 「どんな法案なんですか?」 「税の軽減だ。この数年で税金はあがる一方で庶民達は苦しんでいる。だから一気には無理だが、少しずつ減税したくてな。このままでは庶民が貧困にあえいでしまう」 「なんで時期尚早なんだろう? 貧困にあえぐようになってからでは遅いのに」 「利益を失う者がいるからだ。税を軽くすれば、どこかで帳尻を合わせねばならない。貴族の多くは“どこか”が自分たちであることを嫌うんだ」  それを聞いてどこでも政治家って一緒なんだなと思った。例え星が違っても政治家の自己中な保身は一緒なんだ。自分のことしか考えない政治家ってどこにでもいるんだな。でも、そんな中でも国を正そうとする人がいる。それは国民にとって力強い存在だ。 「頑張ってください。俺はなにもできないけど、せめて美味しいものを食べて貰えるようにアベルさんと頑張りますから」 「ニコラスに聞いたが、アベルとは随分仲良くなったそうだな。仕事などせずに勉強して、あとは好きに過ごしていいというのに」  わぁ、やっぱりニコラスさんから話しいっちゃってる。 「仕事する気はないんです。でも、ここで食べる料理って俺作ったことないから覚えたくて。そうしたらアベルさんと仲良くなって。あ、でも勉強は頑張ってます。ただ、難しくてなかなか進歩してないけど……」  せっかく家庭教師をつけてくれているのに、肝心の俺がなかなか覚えられないというのは申し訳ない。中・高で習う英語でさえ苦手だったんだから、きっと語学のセンスがないんだろうなと思う。それでも勉強するのはやっぱり元の世界に戻る方法が書かれた本があるなら、それを読みたいからだ。 「そうか。ゆっくり勉強していけばいい。焦る必要はない」  レオニスさんはそう言ってくれるけれど、大学の夏休みが終わる頃には戻っていたいから、そこそこ焦ってはいる。別にここでの生活が嫌だとかじゃない。逆に日本にいるより気楽な部分はある。それは親のこと。父親は俺の母親が俺を産んですぐに亡くなって男手ひとつで俺を育ててくれたが、俺が小学6年生のときに再婚し、俺が中学2年のときに子供が生まれている。別に今の母親が俺をいじめたりといったことはない。でも、自分が産んだ子供じゃないから遠慮もあるんだろう。そして俺もそんな家族の中にいるのが居心地が悪くて大学入学と同時に家を出た。でも、正月とお盆には帰ってこいと毎年言われている。それでも俺は大学に入ってから1度正月に顔を出すだけであとは忙しいと言って帰っていない。そんなだから別に向こうに帰ったところで心配している両親がいるわけじゃない。今の俺の家族はルナだと思っているから、ルナと一緒の今は別に問題はないんだけど、人の家にいつまでも働きもせずにいるわけにはいかない。だから、給料を貰っているわけではないけれど、アベルさんの手伝いをさせて貰っているだけだ。料理も覚えたいし。アベルさんは最初客人である俺が足を運ぶことに戸惑っていたものの、一緒に酒を呑んだ日から仲良くなり、今ではほんとに料理のことを色々教わってるし、逆に和食に関しては教えている。これで賃金が貰えればいいんだけど、どうもそうはいかないらしい。  レオニスさん曰く、異世界から来た人間は大事にもてなすようにとこの国では言われているらしい。そしてその異世界人の後見人になれることは貴族として誇れることだという。だから、異世界から来た俺に仕事をさせるわけにはいかないんだという。それを聞いた俺は、きっと今までの異世界人はそれほど間を開けずに元いた世界に戻っているんだろうと思った。でも、だからと言って俺もすぐに戻れるとは限らない。まぁ、単に心配性なだけっていうのもあるけど。ほんと、帰り方さえわかればゆっくり過ごすんだけど、残念ながら今はわからない。だからきっと本があると信じてこの国の言葉の読み書きを覚えるために勉強しているんだ。文字は覚えた。後は文法と単語だ。それさえ覚えれば、きっとどこかにあるであろう異世界人について書かれた本を読めるようになる。そう思ってるんだ。 「そう言いながら、明日も和食を作って貰えないか? 開会初日は気疲れするものだから。この茶わん蒸しがあると嬉しい」 「わかりました。明日もなにか和食を作ります。でも、茶わん蒸しはアベルさんが作っているんですよ」  俺がそう言うとレオニスさんは驚いていた。そうだよね。まさか俺の領分である和食をアベルさんが作るとは思ってないよね。でも逆もあるんだ。こっちの料理を俺が作ることもあるんだ。 「アベルとはほんとに仲良くなったんだな。では明日もアベルは茶わん蒸しを作るんだな」  そう言ってレオニスさんは笑った。うん、帰ってきたときの難しい顔はなくなった。外で頑張る分、家ではくつろいで欲しいからね。だから俺はレオニスさんが屋敷で笑っているのを見るのが好きだ。  明日からは国会で今まで以上に気を張ることだろう。だから、美味しいものを作ってあげよう。なにがいいかな。俺は食事をしながら明日の献立を考え始めた。

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