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偽りの手紙2

 昼食を済ませ部屋に戻るとルナがいなくなった。どこか散歩に行っているんだろうか。でも、今日もリシアさんが来るとすれば。そろそろ来る頃だろう。今まではルナが屋敷内を歩くのは自由にさせていたけれど、つい先日リシアさんがルナを見て「邪魔な猫」と言っているのを聞いてしまってからは、お昼から夕方は部屋にいさせるようにしている。まかさとは思うけれど、なにかされてからでは遅いから。今日も散歩をしているだろうルナを探して屋敷を歩いていた。1階でやっとルナの姿が見えたとき、馬車が玄関に着く音がした。リシアさんが来た! 急いでルナを捕まえなきゃ。リシアさんとは顔をあわせたくないんだ。なんとかルナを捕まえたときと、玄関扉が開いてリシアさんが姿を現すのは同時だった。俺はぺこりと頭を下げ、急いで自室へ戻ろうとしたとき、リシアさんの声が聞こえた。 「なにもそんなに逃げるようにしなくてもよいのに。たまには一緒にお茶でもいかが?」 「申し訳ありませんが、勉強があるので」 「あら、なんの勉強をなさってるの?」 「この国の言葉です」 「ああ、そうね。あなた、この国の人間ではないものね。いつまでここにいらっしゃるの?」  チクチクと刺さる棘。いつまでここにいるかなんてわからない。それを探すために勉強をしているんだ。でも、だからって暗に早く帰れみたいに言わなくてもいいだろう。いつ帰れるのかわかっていたら勉強なんてしないし、とっくに帰っていたかもしれない。  俺はできるだけリシアさんと顔をあわさないようにしているけれど、それでも会ってしまうことはある。そしてリシアさんはそのたびにチクチクと嫌味を言ってくるのだ。それが嫌で部屋に籠もっていたいけれど、リシアさんが来るのが少し早いと食事が終わる時間だったりして、たまに顔をあわせることがある。正直言ってその時間がとても辛い。 「異世界人を保護するのは貴族のステータスのように言うけれど、あなたのような人を彼がどこまで守れるのかしら。あまり彼を苦しめないでね」  レオニスさんを心配するような言葉だけど、見下している言葉でもある。俺のことを言うのはいい。でもレオニスさんのことを見下したりして欲しくない。きっと、いち伯爵家が、と思っているんだろう。侯爵家よりは下だから。ヴァルター侯爵も人を下に見る人だったけれど、姪であるリシアさんも同じなんだなと思った。ヴァルター家というのはそんな家なのだろうか。ヴァルター家のすべての人に会ったことがあるわけではないけれど、ヴァルター侯爵、そしてリシアさんを見ていると、性格がいいようには見えない。人をそう見てしまう俺も性格悪いのかもしれないけど。 「苦しめるつもりはありません」  なんとか声を振り絞って言うと、リシアさんはにっこりと笑って言った。 「そうだといいけれど。レオニス様が心配なの」  ほんとにレオニスさんが心配なのなら、俺がここへ来てから2ヶ月も来ないなんてことはないだろう。それなのに、さも心配している、という顔をするのが心底嫌だと感じる。 「俺もレオニスさんを苦しめる気はないので」 「そう。それなら良かったわ」  そういうとリシアさんは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。そして、その表情を見るのが嫌で、俺はルナを抱きしめると足早に部屋へと行った。  部屋へ戻ると、勉強どころではなくてベッドに突っ伏してしまう。リシアさんと話すのは神経を削られて嫌だ。 「ルナ。お願いだから昼は部屋にいてくれよ」  そうルナに懇願するけれど、なにを言ってるんだという顔をする。 「ルナ。お前の心配をして言ってるんだぞ」  けれど、当然だけとルナは知らん顔をして自分のベッドで寛ぎ始めた。まさか人のいる前でルナになにかをするとは思わないけど、人の見ていないところではなにをするかわからない。とても、性格がいいとは言えない人なので、ルナに怪我を負わせたりしないとも限らない。俺がなにかを言われるのは我慢するとしても、ルナの身になにかあったら俺はとても冷静でいられる自信がない。だってルナはこの世界において、レオニスさん同様、俺にとってなくてはならない存在なんだ。だからルナを守りたいと思うんだ。まぁルナはそんなこと知らないだろうけれど。リシアさんもレオニスさんがいないときを狙ってくるからたちが悪い。日曜日とか屋敷にいるときはあまり来ないのに。きっと俺を追い出すつもりなんだろうけど。簡単には屈しないつもりだけど、心がぽきりと折れる前にレオニスさんに会いたいと思ってしまう。俺の弱さだ。でも、会いたいな……。

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