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偽りの手紙6
パンを食べたらすぐに行こう。そう思っていたのに、なかなか立てなかった。それは、元いた世界に戻れないかということ。辛い思いをしてまでこの世界にいる必要はない。そう思ったからだ。元の世界に戻って、日常を過ごしていれば、そのうちレオニスさんのことも忘れられるだろう。でも、この世界では無理だ。市場にいたってレオニスさんが視察に来ないとは限らない。レオニスさんはもう俺のことなどどうでもいいかもしれないけど、俺はまだレオニスさんに心があるままだ。だから姿を見るのは辛い。それでもこの世界で生きていくには街か市場で仕事をしなくてはいけない。いや、街と市場しか知らないというのはあるけれど。
「ルナ。お前の鈴、どうしたら光るんだ?」
俺の膝の上で丸くなっているルナに話しかける。ルナはパンを食べたあと、毛づくろいをして俺の膝に乗り、そのまま丸くなって寝てしまった。だから返事なんてないのはわかってるけど、光が大きくなれば帰れるんじゃないか、そう思っているので口にしてしまう。
「帰りたいな……」
元いた世界に帰りたいけど、帰り方はわからないし、ルナの鈴の光が関係しているかもわからない。つまりは帰れないということだ。そうしたらやっぱり仕事を見つけなきゃ。生きていかなきゃいけない。ルナにご飯を食べさせてあげられるようにならなきゃ。それには、まず、八百屋さんへ行って相談してみよう。
「おい、ルナ。起きろ。行くぞ」
ルナに声をかけるけれど、起きる気配はない。仕方ない。抱いて行くか。
八百屋の場所は覚えていると思ったけれど、少し迷ってしまった。それでもやっとたどり着けてホッとした。
「あら。あんた。この間、伯爵様と一緒にいた子じゃない? 今日も伯爵様は来ているの?」
リズさんは俺のことを覚えていたようだ。
「おはようございます。いえ、今日は俺1人です」
「なにか用?」
「あの……市場で求人というか人手を探している人を知らないかなと思って」
「人手ならうちが欲しいけど、誰が働くの?」
「俺が……」
「え? でも、あんた伯爵様のところの子でしょう」
そうか。レオニスさんの身内だと思われちゃってるのか。でも、まさか異世界から来て、なんていうわけにもいかないから、適当に誤魔化すしかないよな。
「いえ。ちょっと縁があってお世話になってたんですけど、俺、庶民なんで仕事と家を探していて」
「なんか事情がありそうだけど、いいわ。きちんと働いてくれるなら。その猫と一緒に生きるくらいの賃金は出せるわ。余り物があればあげられるし」
「いいんですか!」
「いいわよ。名前は聞いてなかったね」
「あ、タクヤです」
「じゃあタクヤ、よろしく。私はリズ。旦那はアルドよ。さっそく今日から働いて貰える? 荷台から果物をおろしてきたいの。アルドと一緒におろしてきてくれる? いつも旦那1人でおろすから大変なのよ」
「わかりました! あ、あの、こいつ置いて行ってもいいですか?」
「いいわよ。黒猫なんて神の使いじゃない。見てるわよ」
「ありがとうございます」
「アルド! タクヤが手伝ってくれるって」
「そうか。それは助かる。よし、行くぞ」
「はい!」
俺は抱いていたルナをリズさんに預けて、アルドさんの背中を追った。まさかこんなにすぐ仕事が見つかるとは思わなかった。後は家さえ見つかればいいんだけど。でも、ほんとに仕事がすぐに見つかるなんてルナは神の使いなのかもしれない。そう思ったら、少し前向きになれた。うん、頑張ろう。
「うちは野菜と果物だから重いけど頑張ってくれ。俺1人じゃ時間がかかって大変だったんだ。お屋敷に持って行くときも重いものを1人で持って行っていたしな」
そうか。ここは王都だからたくさんの貴族がいるから、それぞれのお屋敷に荷物を持っていくのか。
「荷物持ちくらいしかできないけど、手伝います」
「ありがとうよ。でも、ほんとにアーゼンハイツ伯爵様のところはいいのかい?」
「はい」
「ま、なにか事情があるんだろうけど、伯爵様が承知しているのなら、うちは問題ないよ」
「承知してます」
「そうか。じゃあ頑張ってくれ。助かるのは事実だ」
そう言ってアルドさんはニカッと笑った。それは着飾った笑顔ではなかった。事情は話せない俺だけど、リズさんもアルドさんも俺を雇うと言ってくれて俺はホッとした。
そして俺はアルドさんと荷台から果物をおろして店へと運んだ。市場の中まで馬が入れればいいけど、店がたくさんあって入れないからいちいち運んでいかなきゃいけない。これは1人では大変だ。
「これを持ってくれ。りんごだ。気をつけてな」
「はい」
りんごが入った段ボールを持ち上げる。なかなかの重さだった。これを店まで運ぶのは大変だ。今まではアルドさん1人で運んでいたなんて、大変だったんだな。なかなかの重さのりんごの箱を運んだあとは、オレンジ、梨を運んだ。アルドさんは時折、腰を叩きながら果物を運んでいた。でも、今日からは運ぶ荷物は半分で済むから、腰も楽になればいいな。そんなことを考えながら仕事をした。
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