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偽りの手紙7
1日の仕事を終えると、腰の筋肉は強張っていた。アルドさんは今までこれを1人でやっていたと思うと、どれだけ大変だったか想像がつく。明日もまた今日みたいなことか。しんどいけど頑張らないとな。ルナと2人(1人と1匹)で生きていかなきゃいけないんだから。でも、明日からルナを市場へ連れて行くのはやめよう。お腹を空かせて他のお店のものを食べてしまっては大変だ。住むところはリズさんとアルドさんの住むアパートに空きがあるらしく、アルドさん名義で部屋を借りてくれて、そこに住まわせて貰えることになった。これには2人に感謝するしかない。荷物はなにもないから、部屋の中はなにもない。日用品もないので、リズさんが今日の分の賃金と少し色をつけてくれて、シャンプーなどの日用品を買いに来た。荷物を持って、噴水のところで休む。食べるものは夕方にパン屋さんで買ったパンとアルドさんから貰ったりんごだ。ルナにパンをやると、朝と同様、バグバグと食べ始める。
「食べるものが少なくてごめんな。もっとたくさん食べられるように頑張るから、もうちょっと我慢してくれ」
ルナにそう声をかけてから、俺もパンを食べる。レオニスさんがこのパン屋は美味しいと言っていただけあってほんとに美味しい。夕方にまたパンを買いに行ったら驚かれたけど、美味しいからと言うと嬉しそうな顔をしていた。買ったパンは朝とは違って長いバゲット。俗に言うフランスパンだ。それとレオニスさんと来たときにも買った蒸しパン。明日以降は、さっき買った土鍋でご飯を炊けばいいかな。それには明日、米を買わなきゃいけない。明日、仕事が終わったら買いに行こう。でも、市場で仕事をするから、食料品を買いに行くのは仕事の合間にも行けるので助かる。
パンを食べ終えたルナは満足そうに顔を洗い、毛づくろいをしている。ルナと2人きりになるのはこの世界に来てからは初めてだな。レオニスさんの屋敷にいるときはいつも誰かがいたから、2人きりになるのは部屋の中だけだった。元いた世界では、ルナは毎日留守番をしていたけど、この世界に来てからは俺はどこにもいかなかったから、留守番をする必要はなかった。でも、明日からはまた留守番をして貰うことになる。甘えん坊のルナにとっては留守番は寂しいだろうけど、2人で生きていくためには俺が仕事をしなきゃいけないから、ルナにも我慢して貰う必要がある。そして、働きながら、元いた世界にどうしたら戻れるのか、その方法を探そう。そして帰ろう。そうしたらまた大学へ戻って日常生活を送っていたらきっとレオニスさんのことも忘れられるだろう。この世界にいたら、万が一でも会ってしまうことはあるだろうし、ここにはレオニスさんとの思い出もある。だから忘れるのは大変かもしれない。でも、あっちへ帰れば、そんな思い出もない。だから、時間が経てば自然と忘れられるだろう。
「ルナ。また2人で生きような」
そうルナに声をかけると、小さくにゃ〜と鳴いた。
「しばらくは屋敷で食べていたような贅沢品はないからな。我慢しろよ」
そういうと、なんだ? という顔をする。そうだよな。ルナにはなんで今日ここにいて、屋敷に帰らない理由もわからないもんな。とそのとき、鈴がちりんとなった。ルナは俺の足元で香箱座りをしていて、動いていない。なのに鈴がなる。こっちへ来てからだ。ルナが動いていないのに鈴が鳴るようになったのは。
「なんでお前が動いてないのに鈴が鳴るんだ?」
そうルナに訊くが、ルナはもう目を瞑っている。ルナが動いてないのに鈴が鳴ること。稀に鈴が淡く光ることがあること。この2つはこっちへ来てから起こるようになったことだ。まぁ、ルナの首輪の鈴のことだけど、だからと言ってルナに訊いたってわかるわけがないよな。でも、なんで俺もお前もこの世界に来たんだろうな。あのときあの神社に行かなければ、こっちに来ることはなかったような気がする。神社ってなにか不思議なものがあっても不思議じゃない気がするし。でも、あの神社に行くようになったのは、ルナが脱走したからだ。ルナが脱走して、いつもみたいにマンション裏で遊ばないで路地を渡って神社へ行ったからだ。ということはルナが俺をここへ導いたのか? でも、なんでルナがそんなことをしたんだ? そんなことはこっちに来てから何度も繰り返し考えていることだけど、答えが出た試しはない。つまり考えても無駄だということだ。まぁ、来た理由はなんだっていい。帰れればいいんだ。
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