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帰還の魔道士4

「すまない」  唇が離れたあと、レオニスさんが発した最初の言葉だった。 「謝らないで、ください。嫌だったわけじゃないから」 「タクヤ……」 「俺、やっぱりここにいたい。家族と会えないのも、友人に会えないのも寂しいけど、あなたのいない場所はもっと寂しい」 「タクヤ……君は本当に。私を戻れなくなせる」 「俺がいない方がいいですか? それなら……」 「そうじゃない。だが……。タクヤがその選択をした以上、私は君を守る」  レオニスさんはそう言って俺を強く抱きしめてくれた。この腕の中はなんて温かいんだろう。そして、心強い。 「魔道士ってあんなに怖いんですね。魔力は使えないって言ってたけど、ほんとに怖かった」 「魔道士としての力が強いほど圧がすごい。だからきっと若い頃はすごい魔道士だったのだろう。今は後継の教育でもしているのかもしれないな」  そうか。あの魔道士はほんとに威圧感がすごかったから、それだけすごい人だったのか。後継って魔道士のか。 「魔道士って勉強というかそんなのあるんですか?」 「ある。もちろん、そんな素質は持って生まれたもので、子供の頃から簡単な魔法は使えると言う。だけど大人になって、その力をコントロールできるように教育を受ける。その教育をするのが、魔道士だ」 「魔道士がいるのはわかりましたけど、魔法使いっていうのはいるんですか? よくおとぎ話に魔法使いって出てくるんですけど。魔法使いと魔道士は呼び方が違うだけで一緒ですか?」  こっちへ来てから、魔道士と呼ばれる人に会ったのは今が初めてだ。でも、ここへ来た最初、俺の体調不良は魔法酔いと言われたから、魔法使いがいるのかと思ったんだ。 「よくごっちゃにされるが正確には違う。というか、魔法使いの上が魔道士だ。魔道士は魔法を使えるだけでなく、先ほどのように視ることもできる。だが、魔法使いは魔法が使えるだけで、視ることはできない」  そうなのか。魔法使いの上が魔道士なのか。そうしたら、魔法使いはそれほど圧を感じないのかもしれない。でも、どうせ視るのなら、今後の俺を視て欲しかった。元いた世界に戻っているのかこの世界に留まっているのか。いや、それともそんなことを聞いてしまったら、今後が変わってしまうこともあるのかもしれない。俺が今後どうするかは俺自身が決めるしかないんだ。 「しかし、タクヤ。本当に帰らなくてもいいのか? 家族や友人には会いたいだろう?」 「会いたいけど……。でも、一番身近な家族は今も一緒にいるから」 「ルナか」 「はい」  そう。両親も弟も身近な家族だけど、いつも俺の傍にいてくれるのは、今この世界を一緒に生きてくれているルナだ。ルナが俺をこの世界に連れてきたにしても、ルナが一緒にいてくれるから心強いんだ。それに、もし元の世界に戻りたくなったら、皆既月食の夜にルナの鈴の光から帰れる。そう思ったら気が楽になった。いつでも帰れるんだ。もちろん、この世界に”心の重み”がないことが条件だけど。もし、レオニスさんとなにかあったら俺は迷うことなく帰るだろう。でも今はレオニスさんがここにいるから俺は帰れない。離れたくないというのもあるけれど、心の重みがあるから。 「リシア嬢との婚約破棄さえできれば……」  レオニスさんが小さくそう呟いたのが聞こえた。なんだろう。 「そうしたらタクヤと結婚するのに」  そう聞こえて俺は驚いた。 「俺、男ですけど」 「それは知っている。しかし、それがどう関係あるんだ?」 「男同士で結婚できるのですか?」 「できるが、タクヤのいた世界はできなかったのか?」 「はい。国によって違いはありますけど、俺のいた国では同性婚は認められていませんでした」 「そうか。しかし、ここでは同性同士でも結婚することはできる」  エルドランドでは結婚できるんだ。 「ただし重婚はできない。だからリシア嬢との婚約破棄ができなければ結婚はできないんだ。なんとかして婚約破棄できればいいのだけれど」  レオニスさんがそう考えるのは、俺との結婚を考えてくれているということだ。それがどれだけ嬉しいことか、レオニスさんはわからないだろう。きっと俺と家族になろうと、そう考えてくれているのだろう。 「……立証さえできれば……」 「立証?」  立証ってなんだ? でも、聞き返した俺にレオニスさんはなんでもないと首を振るだけだった。なにか立証するようなことがあるのだろうか。レオニスさんはそれ以上は言わなかったので俺にはわからない。それでも、そのなにかを立証できればリシアさんと婚約破棄できるということなのだろう。普通ならそんなことをしようものならヴァルター侯爵が黙っていなさそうだけど、それも黙らせることができるのだろう。それだけ大事なことなのだろう。俺にはそれ以上わからないけれど。

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