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鎖と誓い1
レオニスさんの領地へ着いて10日が経つ。魔道士に会ったあの遺跡からグリフォンで1時間くらいかかった。王都から遺跡までも1時間近くかかったから、王都と領地は結構距離がある。
領地にある屋敷には王都の屋敷と同じくらいの使用人がいた。執事のフェルナンドさんはニコラスさんのお兄さんだというので驚いた。兄弟でレオニスさんの執事をやっているなんて。そして、ここ領地で俺の専属のメイドさんはアリシアさんというクララさんと同じ歳のハキハキした人だ。そして領地で料理人をしているのはマルクスさんだ。マルクスさんは真面目で少しとっつきにくいと思ったけれど、料理のことに対しての情熱はアベルさんと同じかそれ以上あるので、俺が和食という料理をたまに作るというと、やはり手伝ってくれるという。レオニスさんが言っていたように領地の使用人の人たちも王都の屋敷の人たち同様いい人たちばかりみたいだ。
領地へ着いて真っ先にレオニスさんがしたのは書類整理だ。俺も手伝おうとしたけれど、レオニスさんが1人でできるというので、それはレオニスさん1人でやっている。でも、領地内を視察するときは俺も付いていく。領地内の街はそこそこ賑わっていて、地方都市と考えると十分だと思える。そして海に面しているので新鮮な魚が手に入る。マルクスさんが魚を捌けるというので1度魚を捌いて貰って刺し身でイカとカツオを食べたところ、レオニスさんは刺し身をいたく気に入って刺し身の虜になった。次はマグロを食べてみたいと言っていた。だから漁師さんにマグロがとれたら連絡を欲しいと頼んでいたのを見て、もしレオニスさんが日本に行ったらお寿司屋さんに通う羽目になりそうだなと考えたら、寂しいのか楽しいのかわからなくなった。帰れない、いや帰らないと選択したのは自分だ。それでも思い出すと寂しさがないわけじゃない。でも、それはレオニスさんの前では出さないようにしている。きっと自分を責めてしまいそうだから。そして果樹園への視察で、俺はひとつ提案をした。苺をハウス栽培にしてはどうかということを。この世界にはまだハウス栽培というのはないらしく、ビニールハウスに温度・湿度・光などを人工的に管理するというのにはびっくりしていた。ハウス栽培すると周年安定生産できるので、今よりも収益化できる。これには農園の人にもレオニスさんにも感謝された。周年安定生産できたらその分でジャムにすることができるというと、ジャムは今でも作っているみたいだけど量が少ないから価格が高いという。でも周年安定生産できたら今よりもジャムにすることができるから価格を安くして庶民でも買えるようにしたり、王都へ出荷したりできる。これも収益化になった。日本で普通にあったことが、こっちに来たらなかったりというのが結構あるから、その知識でレオニスさんに協力できたらいい。ちなみに魚を捌ける人を雇って港で海鮮丼を出す店か寿司屋を作るというのもレオニスさんに提案している。今の俺がレオニスさんの役に立てることがあって俺としては嬉しい。王都ではなにもできなかったから。
そんな毎日は穏やかで、こんな時間がずっと続けばいいと思う。王都ほどの刺激はないけれど、そこそこ栄えている街に市場。そして農園に港。温暖で魚もとれるのなら他の領地からの旅行者も受け入れることができるだろう。俺は王都も好きだけど、ここも既に結構好きになってきている。でも、レオニスさんは違うかもしれない。昼間は忙しく仕事をしているから大丈夫なのだろうけど、夜になると火を見つめて黙りこむことが多い。きっと心の中では王都にいる仲間のことを考えているのかもしれない。庶民救済に関しては、まずはここ領地から、というのでできるのでいいけれど、王都には一緒に戦っていた仲間がいる。その人たちのことを思うのだろう。でも、全てがうまくいくことはない。庶民救済は地方都市だからこそ手がつけやすいというのがある。だからその点については納得しているみたいだ。そして、俺が元いた世界に戻らず、ここに残ると言ったことも気にしているみたいだ。でも、俺にしてみたら、レオニスさんが笑ってる。それだけで俺は十分なんだ。でも、レオニスさんの瞳はどこか遠くを見ているみたいで俺は少し不安になる。
「王都に戻りたいですか?」
ある日レオニスさんに訊いてみた。するとレオニスさんはこう答えた。
「戻りたいというより仲間が気になるだけだ」
と。たまに王都から使いが来て、王都の様子を聞いた夜は寝付きが悪いようだ。そんなレオニスさんに俺はなにもできない。それが辛い。貴族院のことは俺にはなにもできないから。いつか王都へ戻ると言わないだろうか。俺はそれだけが気になっていた。
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