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鎖と誓い4
オレンジ農園への視察に行って、スムージーのお店について考えてからレオニスさんはこの領地の市場の八百屋さんに話しをしに行ったりと忙しくしていた。それを見ている限りはいい感じだけど、夜になると悪夢にうなされて起きてしまうことが多いらしく、目の下には隈が消えないし、疲れた顔をしている。きっと昼間忙しくしているのは夜のことを忘れたくてなんじゃないかと俺は思っている。昼の仕事は手伝えることがあるから手伝うけど、睡眠の方はどうしてあげることもできない。昼間忙しく働いているんだから、夜は夢も見ずにぐっすり眠れてもいいはずなのに、それができないでいる。どうしたら悪夢も見ずに夜ゆっくり眠れるんだろう。でも、夢に見るくらい置いてきた仲間の人たちのことを考えているんだろう。ヴァルター侯爵みたいな人がいるから気になるのもわかる。ヴァルター侯爵は今どうしているんだろう。レオニスさんが議員を辞めるとしているけれど、レオニスさんが議員を辞めてもリシアさんとの結婚は必要なんだろうか。レオニスさんが議員を辞めたらレオニスさんを押さえつけておく必要はないのだけど。それともレオニスさんが議員を辞めても改革派の議員との絆はあるから、やっぱりレオニスさんを押さえつけておく必要はあるんだろうか。まあやることが汚いから、もしかしたら今後は改革派の他の議員に圧力をかけることがあるかもしれない。あんな人が侯爵だなんてな。爵位が泣くよなと思う。レオニスさんはよく戦っていたなと思う。リシアさんとの婚約まで押し付けられて、それでも庶民救済を辞めようとはしなかった。それはすごいと思う。そこでふと、俺と結婚したいと言ってくれたことを思い出した。もちろん今はリシアさんという婚約者がいるから無理なのだけど、リシアさんとの婚約が破棄できたら俺と結婚したいと言ってくれた。俺としては嫌ではない。というか、そう言ってくれるのは嬉しい。ただ相手がヴァルター侯爵家だから婚約破棄は簡単ではないけれど。でも、もしレオニスさんが議員を辞めることができず、リシアさんとの婚約破棄もできないとしたら俺はどうしたらいい? リシアさんは俺を良く思っていない。それはあの偽造した手紙の一件でわかる。そうしたら、今度はほんとに屋敷を出て行く必要があるだろうな。そのときはこの街にいるか王都に戻るか。それは考えなくてはいけないと思う。でも、それはそのときに考えればいい。今はただ、レオニスさんの安眠を確保することが必要だ。
レオニスさんは暖炉の前で書簡を読んでいる。昼間王都から来た知らせだった。王都から来る知らせというのはいいイメージはない。ヴァルター侯爵やオマンド子爵がなにかやったのだろうか。書簡を読んでいるレオニスさんの眉間にシワが寄っているのを見てそう思う。俺が黙ってレオニスさんを見ていると、レオニスさんは立ち上がった。
「……もう逃げない。王都へ戻る」
王都へ戻る? 夜は悪夢にうなされることがあるとはいえ、昼間はいきいきと仕事をしているのに。王都にいるときより表情が明るいんだ。それなのに王都へ戻る? そうしたらまた前のようになってしまうのか。それより、議員を辞めるべく領地に戻ったことでヴァルター侯爵が嫌がらせを働いたりしないだろうか。嫌味くらいで済めばいいけれど。
「タクヤはどうする? ここにいてくれてもいいが。王都へ戻ればリシア嬢もいるからな」
「いいえ。レオニスさんが王都へ戻るというのなら俺も戻ります。それより、今戻ったらなにがあるかわかりませんよ!」
「しかし、あの街に残してきた人々を、見殺しにはできない。タクヤは自由でいろ。私が生きていると信じてくれればそれでいい」
「そんな! 俺も行きます。あなた1人を行かせるわけにはいきません」
「王都にはリシア嬢もいる。今度はなにをするかわからない」
「レオニスさんの気持ちを知ったから今度は大丈夫です。リシアさんには負けないつもりです」
「……わかった。一緒に行こう」
俺がレオニスさんを止めることができないのと同じように、レオニスさんは俺を止めることはできないだろう。だって、ヴァルター侯爵やオマンド子爵が今度はどんな汚い手を使ってくるかわからない。もしかしたら今まででは想像もできないことをしてくることだって考えられる。だから俺はなにがあってもレオニスさんについていくつもりでいる。ヴァルター侯爵やオマンド子爵がいなければ王都もいいのに。
「フェルナンド」
「……はい。旦那様」
「明日、王都へ戻る。荷物をまとめて欲しい。タクヤも連れていく」
「かしこまりました」
「待って! フェルナンドさん、俺の分は大丈夫です。自分でやるので。レオニスさんの分だけお願いします」
「かしこまりました」
こうして俺とレオニスさんは急遽、王都へ戻ることに決めた。なにごとも起きなければいいけれど。なんだか嫌な予感がした。
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