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鎖と誓い6

 王都の屋敷の庭についてすぐにレオニスさんは捕まった。証拠もなく。命令があると言って。普通は証拠があって裁判所が認めた場合のみだと思うけど、証拠なしとは思わなかった。それでも自信満々にレオニスさんを捕らえた兵は、おそらくヴァルター侯爵派なのだろうな。レオニスさんは冷静だった。どこかで予想していたのだろうか。俺はと言えば取り乱してしまった。レオニスさんが連れて行かれる直前に出てきたニコラスさんに抱きかかえられる始末だった。ニコラスさんが使用人の人たちに言ったんだろう。屋敷の中はお通夜のように重く沈み、静かだった。ただ、ニコラスさんやクララさんは俺を気遣ってくれた。アベルさんの食事は美味しいのに食べる気になれずに、そのまま下げて貰った。いつもなら絶対にしないのに。  連れて行かれたレオニスさんを取り戻す方法はないんだろうか。だって証拠もないんだ。普通なら連れて行かれるはずがないのに。証拠もなしに連れて行かれるなら取り返すこともできるはずだ。でも、俺1人ではなにもできない。でも、助けたいという気持ちだけはある。俺のようにレオニスさんを助けたいという人はいないだろうか。いや、いるはずだ。例えば市場の人。そこまで考えて俺は市場に行こうと思った。屋敷の人はレオニスさんの仲間の改革派の人が来たりするからダメだ。それなら市場の人だ。俺はルナを屋敷に残して市場へと走った。屋敷を出ていこうとする俺にニコラスさんは慌てて声をかけてきたけれど、市場に行ってくると言うと、俺がしようとすることに気づいたのだろうただ一言、「お気をつけて」とだけ言って送り出してくれた。  屋敷から市場までの道のりは気が急いて走っていた。誰に声をかけたらいいだろう。そう考えて、一番声のかけやすいリズさんに声をかけるようにした。俺がリズさんとアルドさんの八百屋さんのスペースに行くと、リズさんは俺に気がついてくれた。 「タクヤ。どうしたの? 伯爵様の領地に行ったんじゃないの?」 「行きました。でも今朝戻って来たんです。でも、ヴァルター侯爵派の人だと思われる兵に連れて行かれてしまって……」  そこまで言って俺は涙が止まらなくなってしまった。 「伯爵様が? なんてこと!」 「俺、レオニスさんを助けたい。助けたいんです、彼を」 「私も助けるわ! 一緒に助けましょう。市場にはそんな人間は多いわよ。アルド、リアムたちに声をかけてきて。伯爵様を助けましょう!」 「ああ、行ってくる」  そう言ってアルドさんはかけて行った。そしてリズさんは俺の背をさすって落ち着かせてくれた。その手が温かかった。 「大丈夫。私たちで助け出しましょう。いつも私たちに気を止めてくれたのは伯爵様ぐらいだった。市場には伯爵様に助けられた人間はたくさんいる。それで伯爵様を助け出しましょう。必要なら魔法使いも使って」  魔法使いという単語に心臓がハネた。リシアさんが魔法で作らせた手紙のことを思い出してしまったのだ。でも、今回は誰かを陥れるためにじゃない。助けるために使うんだ。そう思って俺は頷いた。 「ご飯は食べた?」  俺を心配してくれるリズさんに俺はかぶりを振った。食事など喉を通らなかった。そんなことよりここに来ることのほうが大事だった。そう言うとリズさんは、食事はとらなきゃダメだと言って、とりあえず果物でも食べて、後でアレクさんのパンでも買って食べようということになった。  そしてリズさんとしばらく待っていると、アルドさんが俺も会ったことのある、パン屋のアレクさん、肉屋のユージンさん、魚屋のリアムさん、穀物屋のライナさん、酒屋のレオンさんを連れてきていた。他にも来ようとした人はいたけれど、店を離れられないというので、店を離れられる人のみ集まってくれたらしい。みんなレオニスさんがヴァルター侯爵派に捕まったということに憤っていた。 「監獄から助け出すには書類が必要なはずだ。でも、そんなものはないし……」  酒屋のレオンさんがそう言うと、リズさんが言った。 「腕のいい魔法使いを知ってるわ。私たちと同じで改革派の人たちに期待している人だから、きっと助けてくれるはず」 「ああ、リカルドか。よし連絡をとろう」  そう言って帰ってきたばかりのアルドさんは再度出かけていった。 「リカルドは魔法使いとは言え、魔道士に近い力を持っているから大丈夫。それにね、リカルドの両親は昔、リアムさんのところで働いていたとのよ。だからリカルドは市場で育ったようなもの。だから今回のことには協力してくれるはず」 「ありがとうございます……。俺、レオニスさんに助けられたから、今度は俺がレオニスさんを助けたいんです」 「俺たちも一緒だ。俺たち市場の人間に心を砕いてくれたのは伯爵様しかいない。その伯爵様のピンチだ。見過ごすことはできないよ」  肉屋のユージンさんが言った。その言葉に俺は再度涙を流した。 「アレク。タクヤにパンを少しやってくれる? なにも食べてないというの。みかんは食べさせたけど、それだけじゃあ力が出ないから」 「ああ。持ってくるよ。待っててくれ」  アレクさんは、あの子供がパンを盗もうとしたパン屋の人だ。あれから子供にパンをしっかり食べさせたら、すごい仕事を頑張ってくれていると言っていた人だ。きっとアレクさんがここに来たということはあのときの子が店番をしているんだろう。しばらくすると蒸しパンを持ってアレクさんが戻ってきた。 「食欲がないだろうから、そういうときは柔らかいパンが一番だから蒸しパンにしたよ」  そう言って俺にパンをくれる。その心遣いに俺は余計に涙が出た。 「ありがとうございます。この恩は必ず返します」 「それは必要ないよ。これが俺からの恩返しだ。伯爵様と君には助けられたんだから」  俺はレオニスさんと一緒にいただけで、なにもしていないのに。なんて優しい人なんだろう。 「夜にでもリカルドを連れて来るから、そうしたら作戦会議しましょう」  それにみんなは頷いた。きっと誰かに店番を任せたりしてきてくれたのだろう。ほんとにレオニスさんは市場の人たちに慕われているんだと思った。    

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