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夜明けの救出1

 夜の街はシンと静まり返っている。その道を1人で歩く。前にレオニスさんと歩いたことがあるけれど、街灯も少なくて怖いと思った。でも、今はそんなことを言っている場合じゃない。通りには、湿った石畳の匂いとどこかから安酒の甘ったるい香りが混じって漂っていた。笑い声も怒鳴り声も遠く、人はみんな息を潜めて生きているんじゃないかと思うところだ。  俺は細い路地をいくつか曲がって、リズさんとアルドさんの家へと行った。2人の家を知っていて良かった。これから話すことを市場や街で話すわけにはいかない。どこでヴァルター侯爵の耳に入るかわからない。   「すいません。遅くなりました」 「大丈夫よ。まだリカルドもホセも来てないから」  リカルドというのは確か魔法使いだった。ホセという名前は知らないので、誰かわからないけれど。  とりあえず中へ入ると市場の人たちが集まっていた。俺が知っている人もいるけれど、知らない人もいる。でも、きっとレオニスさんと親しかったんだろう。レオニスさんがピンチということで集まってくれたんだろう。そう思うと感謝しかないし、絶対に成功させようと思った。しばらくするとドアがノックされ、入ってきたのは黒の長い外套をまとった男だった。歳は30代半ばくらいで、目つきはするどいけれど、どこか疲れて感じる。 「この人が魔法使いのリカルドよ。魔法使いと言っても魔道士に近いから腕は確かよ」  リズがみんなにリカルドさんを紹介する。するとリカルドと紹介された魔法使いは軽く頭を下げた。 「話しは聞いた。無茶をやろうとしているらしいな」  率直すぎる言葉に、俺は苦笑いしか返せない。確かにそうだ。牢獄に入れられたレオニスさんを助けるなんて簡単じゃない。しかも助けるとはいえ、正攻法じゃない。だから無茶をするんだ。でも、そうでもしないとレオニスさんを助けることなんてできない。  リカルドさんは俺を一瞬、値踏みするように見てから、後は部屋の端に腰をおろした。そして言う。 「魔法で文章を偽造すること自体は難しくない。ただし、問題は”印章”だ。あれは単なる刻印だけじゃない。登録された魔力波形を持っている」  その言葉に胸が沈む。やっぱり簡単なことじゃない。魔法使いがいても無理な話しか。そう思うと自然と顔が暗くなる。せっかく市場の人たちが集まってくれたけど、これはこのまま解散かもしれない。そう思ったとき、もう1度ドアが控えめにノックされた。市場の人が来たのだろうと思った。地味な外套に控えめな物腰。だけどその目にははっきりした意思が宿っている。 「ホセ。待っていたわ」  リズさんが声をかけた。 「ホセは文官よ。以前、不正を告発しようとして追い落とされかけて、そこを伯爵様に助けられたのよ」 「恩を返せるときがきました」  そう前置きをして、彼は懐から一通の書類を取り出した。封蝋はまだ割られていない。 「これは正式な保釈命令書の原本です。過去に使われ、保管されていたものですが、形式も文言も今も通用します」  一瞬、息を忘れた。原本。それがどれほどの価値を持つか俺にもわかる。 「……でも、印章がない限り意味をなさない」  リカルドが言い、ホセが頷いた。 「その通りです。使用される印章は、王都監獄の監獄官が個人で管理している。貸与ではない。持ち出しも原則禁止です」  沈黙が落ちる。難しいというものじゃない。王都の中枢に手を突っ込むに等しい。それでも俺はやらなきゃいけない。レオニスさんを助け出さなきゃいけない。そう思って椅子から立ち上がった。心臓はうるさいほど鳴っている。 「……それでもやりたいです」  みんなの視線が集まる。怖くないわけがない。失敗すればここにいる全員が捕まる可能性だってないわけじゃない。だから無理だと思う人が出てくることだってある。それでもなお、ここに残る人には頭を下げるしかない。そしていつか恩を返そう。そう思って俺は土下座をして、深く頭を下げた。 「お願いします。協力してください」  すると深いため息が聞こえ、俺は頭をあげた。 「……まったく。命知らずだな」  そう言ったのはリカルドさんだった。次に声を出したのはリズさんだった。 「今さらでしょ。伯爵様にはよくして貰っているのよ。市場のみんなが伯爵様の世話になっているのよ。やるに決まってるじゃない」  リズさんの言葉に、ホセさんが静かに微笑んだ。 「リズの言う通りです。みんな伯爵様には助けられてる。その恩を返すだけです。だから頭を下げる必要なんてありません」  その言葉に胸が熱くなった。1人も席を立って帰る人はいなかった。怖い。失敗したらと思うと震えてしまう。でも、1人じゃない。みんながいる。そう思ったら、絶対に成功させよう。そう思った。  

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