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夜明けの救出2
「一番最初にすることは監獄官を魔法で眠らせて、印章を押すことよ。私たちに会ったことも魔法で忘れて貰う。リカルド、頼むわ。そうしたら牢獄へ潜入して、また魔法で番兵を幻影で反らせている間にリカルドとタクヤが内部へ入るのよ。ちなみに看守のグランは伯爵様に恩があるとかで協力してくれる。とにかく要所要所でリカルドには魔法を使って貰う」
リズさんが案をまとめて言うと、リカルドさんは苦笑して言った。
「なんだか一番仕事が多いな。でも、庶民救済をしてくれるのは伯爵様しかいない。俺は庶民なんで、伯爵様のためとあらば働くよ」
「俺たち市場の人間はみんな伯爵様にはいつも気にかけて貰っているし、なにかあったら直接話しも聞いてくれる。そんな貴族はアーゼンハイツ伯爵しかいないんだ。その伯爵様のピンチならみんな助けるに決まってる。最もやれることなんてわずかしかないけどな」
そう言ってくれたのは酒屋のレオンさんだった。レオンさんには料理酒を作って貰ったことがある。こっちこそお世話になっているのに、そう言ってくれるのか。俺は思わず目が潤んだ。見ると、他の人たちも頷いたり、声をあげたりしている。これだけたくさんの人にそう言って貰えるのはレオニスさんの人徳だなと思う。でも、これだけの人が力を貸してくれるんだ、失敗するわけにはいかない。
「伯爵様を助け出したら、しばらく領地へ戻って貰った方がいいかもしれない。伯爵様が牢獄にいないとわかったらヴァルター侯爵がなにをするかわからないからな」
そう言ったのは、魚屋さんのリアムさんだった。ああ、こんなに心を砕いてくれる人がいるのか。
「ありがとうございます。レオニスさんを無事救出できたら、グリフォンで領地に戻ります。どこかにグリフォンを待機させられるところはないですか? できれば牢獄の近くがいいんですが」
「そうしたら街の北側の丘がいいんじゃないかしら。牢獄からも近いし、グリフォンが待機できるだけの広さはある」
「それなら俺がお屋敷に行ってグリフォンを丘に誘導しよう」
こうしてグリフォンは街のはずれの丘に待機させることに決まった。
「アレクがグリフォンを北側の丘に連れてきたら作戦開始よ」
リズさんのその言葉にみんなは頷いた。俺がここに来るときにニコラスさんが念の為にと言って、庭にグリフォンを連れ出しておいてくれたからすぐに来るはずだ。ニコラスさんも屋敷の人たちも今夜は寝るどころじゃないと言って広間に集まっていた。ニコラスさんに至っては、姿を隠す必要があるからと言ってレオニスさんの荷物をまとめておくと言ってくれていたから、俺が自分でまとめておいた荷物と一緒にグリフォンに積んでいてくれるはずだ。
そうしてどれくらい息を潜めていただろう。グリフォンを丘に誘導してきてくれたパン屋のアレクさんがリズさんの家に戻ってきた。それが作戦開始の合図だった。
牢獄の中まで行くのは俺とリカルドさんで、監獄の入口を固めるのは、レオンさん、リズさん、アルドさん、リアムさん。北側の丘にはアレクさん。その他の人には監獄から丘までの要所要所にいて貰うことにした。
リズさんの家を出るときは大人数なので、近所の人にバレないように、みんな息を潜めて家を出た。そのみんなの顔は緊張していた。リカルドさんも表情を引き締めていた。それはそうだろう。一番仕事が多くて失敗が許されないんだから。俺はと言うと心臓がバクバクうるさいけれど、やるしかないんだ。そう思って自分にカツを入れた。市場のみんなや屋敷の人たちを代表して中に入るんだ。俺がドジを踏めばリカルドさんの足を引っ張ることになってしまう。そうならないように気を引き締めなくては。
「俺がある程度はフォローするから頑張ってくれ。あんたが頑張らないと、この計画はおじゃんになってしまうからな」
小さい声で声をかけてきたのはリカルドさんだった。
「はい。頑張りますので、よろしくお願いします」
「大丈夫だ。伯爵様とあんたの乗ったグリフォンが王都から飛び立つのは魔法で見えなくするから、とにかくグリフォンに乗るんだ」
「はい!」
荷が重いけどな、と言いながらリカルドさんは笑って言ってくれる。リカルドさんがここまで言ってくれるんだ。失敗なんて絶対しない。そう思って牢獄までの道を歩いた。街の東北部にある牢獄までの道のりは静かだった。俺は歩きながら、あのときレオニスさんはどんな気持ちでこの石畳の上を歩いたんだろうと思いをはせた。あのときレオニスさんは取り乱したりすることなく冷静だった。冷静さを欠いていたのは俺だった。レオニスさんがニコラスさんに俺を任せるというと、ニコラスさんは俺を屋敷の中に入れたから、連れて行かれる後ろ姿は見ることがなかった。
レオニスさんを監獄から助けようと思って市場へ行くことにしたのはニコラスさんの淹れてくれたジャム入の甘い紅茶を飲んだあとだった。屋敷の人たちはみんなレオニスさんを助けたいという思いでいっぱいだった。それを代表して動いたのが俺だっただけだ。俺がいなかったら、きっと屋敷の誰かがやっていた。そう思うくらい屋敷のみんなの思いはひとつだった。
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