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静かな朝の誓い4
その知らせは夕暮れの静けさを切り裂くかのように届いた。レオニスさんと湖へ行ってから1週間が経った頃だった。屋敷の門が荒々しく叩かれ、息を切らした使者が駆け込んできた瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた。それは予感という曖昧なものじゃなくて、革新だった。というより使者がくるのは、王都の情報だ。それ以外にない。
「旦那様、王都より緊急の知らせが参りました」
ダイニングで昼食後の紅茶を飲んでいる途中だった。俺は手が止まり、落ち着かないのに、レオニスさんは優雅に紅茶を飲んでいる。でも、目はフェルナンドさんを強い視線でじっと見ている。やっと来た、と思っているのかもしれない。
「ヴァルター侯爵派が、反乱を起こしました」
一瞬、言葉の意味がわからなかった。だって、この国を牛耳っているようなものだから、今さら反乱なんて、と思うけれど、そうか、ヴァルター侯爵の上には王族がいる。王族に対する反乱か。どれだけ国を手中に収めれば気が済むんだろう。
「都は混乱しているようで、改革派の議員たちは各所で足止めされているそうです。改革派は劣勢です」
劣勢。それはただ不利というだけの意味じゃない。押しつぶされる寸前だということだ。レオニスさんが王都へ行くタイミングって、こういうことだったのか?いや、こんなんじゃないはずだ。でも、これはかなりのことで、改革派の仲間の人たちが不利だというのに行かないわけにはいかない気がする。レオニスさんはどうするんだろう。そう思ってレオニスさんを見ると、ただ静かに、言った。
「……そうか。行かなくてはいけないな。終わらせるために」
そう、だよな。でも、行くべきタイミングではなかった気がする。まだ物事は終わらないということか。だけど、混乱している自分に対して、レオニスさんは落ち着いている。終わらせるためにって言うことは、レオニスさんが待っていた知らせはこんなものだったんだろうか。そう思ったら胸がぎゅっと締めつけられた。
――終わらせる。
それは、勝つか負けるかじゃない。命をかけてでも、決着をつけるという意味だ。そう思うと怖くなった。
「……1人で行かないでください」
声が情けないくらいに震えた。止めたいわけじゃない。俺ができることなんてない。それでも、戦っているレオニスさんの傍にいたい。それだけだ。
「一緒に来てくれるか」
「……はい」
そう返事を返すと、レオニスさんはほんのわずかだけど表情を緩めた。
「そうか。タクヤがいるだけで私は戦える」
その言葉が、ナイフみたいに俺の胸に突き刺さった。重い。でも、嫌なわけじゃない。戦うレオニスさんを1人にするなんて俺にはできない。もちろん、俺はなにもできないけど、傍にいることはできる。足手まといにならないようにして。レオニスさんは俺に居場所をくれて、温かい心も貰った。なのに、ここで背を向けるなんてできるはずがない。
「一緒に行きます。なにもできないけど……」
「タクヤはいてくれるだけでいい。フェルナンド。急いで荷物の準備を」
「既に出来ております」
「じゃあタクヤ……」
「俺も出来てます」
「なんだ。2人とも早いな」
俺は、いつか王都へ戻ると知っていたから、いつでも行かれるように荷物をまとめてあった。多分、フェルナンドさんも同じなんだろうな。そう話していると、別の使者も来た。俺とレオニスさんも玄関ホールにいたからフェルナンドさんを介さず、直接聞いた。もう少し遅かったら知らせを受け取れないところだった。タイミングがいい。
「密輸書類の作成に関わっていたエリクが、証言を決意しました」
その名前を聞いた瞬間、レオニスさんの目が鋭くなった。そして、静かに息を吸うと静かに言った。
「来たな」
その言葉で、レオニスさんが待っていたのは、この知らせなんだとわかった。
「エリクが証言するなら、形勢は変わる。いや、変えられる」
それは希望だった。でも同時に、最後の賭けでもあった。
「よし、タクヤ。王都へ行こう。全てを終わらせに」
「はい!」
俺とレオニスさんの未来を掴むために王都へ行こう。
フェルナンドさんはレオニスさんの荷物と俺の荷物をグリフォンに乗せてくれる。そして、ルナはグリフォンの足元でプルプルと震えている。グリフォンを見ただけで怖いと思うんだな。そうだよな。滑って落ちないとも限らないし。仕方ない。俺はだいぶグリフォンに慣れてきたから、片手でルナを抱いてやろう。それでも怖いだろうけど、荷物とレオニスさんの間にいるよりは怖くないはずだ。
「ルナ。おいで。抱いててやるから。レオニスさん。レオに、ゆっくり飛んで貰ってください。ルナを片手に抱いて行くので」
「わかった。……タクヤ。ありがとう。君を巻き込んでしまっているが、一緒に来てくれるのは嬉しい」
レオニスさんの声はいつもより少し低かった。
「俺自身の未来が関係しているんです。巻き込まれたとは違うと思います」
そう言って俺は笑った。いや、ちゃんと笑えていたかはわからないけれど。
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