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静かな朝の誓い5
「……一緒に行きましょう。王都へ」
俺の言葉にレオニスさんは頷き、空を見上げる。つられて俺も空を見る。沈みかけた太陽が空を赤く染めていた。嵐の前の空だ。でも不思議と逃げたいとは思わなかった。レオニスさんの隣なら、恐怖ごと抱えて進める気がした。
レオニスさんは先にグリフォンに跨り、レオニスさんの手を借りて俺も乗る。ルナは軽やかにジャンプして飛び乗ってきた。でも、今日は片手で抱いていてやる。
「ルナ。おいで」
そう声をかけてから俺とレオニスさんの間にいたルナを片手で抱いてやる。まだ飛んでいないのに、グリフォンに乗ると怖い思いをすると刷り込まれているのか、軽く震えている。
「大丈夫だよ。俺が抱いててやるから」
そう言うとルナは少し落ち着いたのか震えは止まったけれど、爪を出して俺にしがみついてきた。そんなルナと俺を見てレオニスさんはレオに言った。
「レオ。ゆっくり飛んでくれ」
そうすると、レオはわかったというように小さく吠えた。グリフォンの声ってライオンの鳴き声に近いんだな、と関係ないことを思った。
レオはゆっくりと羽ばたき、空へと羽ばたく。
「旦那様。お気をつけて」
フェルナンドさんがそう言って、屋敷のひとみんなが頭を下げる。
「ああ。必ず戻ってくるよ」
「お待ちしております」
フェルナンドさんの声を聞いたあと、レオは高度を上げた。
王都へ行く。全てを終わらせるために。レオがゆっくりと羽ばたき、俺はしばらく口を開けなかった。ルナは俺の腕の中でじっとしている。俺の頭の中ではいくつもの考えが浮かんでは消えていった。ほんとに王都へ行くんだ。戦いの中心へ。逃げ場のない場所へ。一番気をつけないといけないのはレオニスさんが再度捕まることだ。怖くないと言えば嘘になる。レオに掴まっている手はじっとりと汗ばみ、指先が冷たい。レオニスさんが捕まったときのことを思い出したからだ。レオニスさんは今、どんな表情をしているんだろう。先ほどのように落ち着いた表情をしているんだろうか。それとも硬い表情をしているんだろうか。自分が投獄され、命を狙われた場所だ。普通なら足を踏み入れることさえ拒みたくなるはずなのに。それでも、レオニスさんは行くんだ。終わらせるために。そして同時に、証言者となる人のことを考えた。その人も証言をすることを決意することは怖いはずだ。レオニスさんたち改革派がその人や、その人の家族の安全を約束しているはずだ。それでも失敗すれば全てを失うかもしれない。本人も。そして家族も。それでも不正を告発する道を選んだんだ。すごい勇気だと思う。その人の勇気に比べれば、俺なんて怖いって言ってはいけない気がする。レオニスさんはただの理想論者じゃない。言葉にしたことの責任を必ず背負う。だから人は、庶民は命を賭けてでもついてくる。そんなレオニスさんはすごいなと思った。
「……怖いか?」
不意に話しかけられて、肩が跳ねた。
「正直に言えば」
一瞬、言葉に詰まる。それでも誤魔化すことはしなかった。
「……怖いです」
「そうか。それでいい」
否定も励ましもない。
「恐怖を知らない者は、守るべきものも知らない」
淡々とした言い方だったけど、その言葉は不思議と俺を落ち着かせた。俺は振り向いてレオニスさんの目を見る。力強い目だった。その目に迷いはなかった。ああ、この人は強いんだなと思った。そう思えば、俺の中の恐怖も小さくなっていった。
「タクヤ。もし途中で引き返したくなったら、遠慮なく言え」
真剣な目だった。でも、俺は首を横に振った。
「いいえ。もう決めたんです。あなたの隣に立つって」
自分でも驚くくらい、声ははっきりしていた。沈黙が落ちる。しばらくの間があり、レオニスさんはほんの少し笑った。
「……ありがとう」
それだけで胸の奥が熱くなった。レオはゆっくりと夜の空を飛んでいく。王都めがけて。あの場所で、また全てが動き出す。裏切りも恐怖も、希望も。全部ひっくるめて。俺はルナを抱きしめる腕に力を込めた。戦いを見るのは俺だけじゃないだろう。きっと市場のみんなも来るはずだ。改革派が勝利することに期待を込めて。だから俺は逃げない。目を逸らさない。この世界で初めて自分で選んだ戦いだから。改革派は今は劣勢でも、密輸の証言者が出たらヴァルター侯爵派は一気に劣勢になる。まさか書類を作っていた者が密告をし、証言までするとは夢にも思っていないだろう。だけど、証拠と証言者がいれば改革派は一気に有利になる。ヴァルター侯爵が失脚すればオマンド子爵も足元が崩れるし、レオニスさんはリシアさんとの婚約を破棄できる。今夜、全てが変わる日だ。今度領地へ戻るときは笑顔で戻れる。それを胸に俺は前を向いた。グリフォンは優雅に薄暗い空の中を飛んでいく。王都めがけて。
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