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静かな朝の誓い6

 王都の屋敷の庭にグリフォンはふんわりと着陸する。ルナは俺の腕から抜け出し、グリフォンから飛び降りる。そしてニコラスさんにルナを任せて俺とレオニスさんは馬車に乗り換えて議事堂へと向かった。  ヴァルター侯爵派が反乱を起こしたことで街は騒然としていた。議事堂の前も同じだった。俺とレオニスさんは議事堂の正面から堂々と出頭する。中ではヴァルター侯爵とオマンド子爵が余裕の態度で待ち受けていた。  議事堂の扉が閉まった瞬間、外の喧騒が嘘のように遮断された。分厚い石壁に囲まれた空間はひんやりと冷えていて、空気が重い。それはこの状況だからか。天井は高く、円形に広がる議場には段状に貴族たちの席が並んでいる。その中央、裁定の場に供えられた壇上には議長席があり、すでに白髪の議長が巌しい表情で座っていた。ここが、いつもレオニスさんが戦っているところなんだ。そう思うと俺は無意識に息を詰めた。  俺とレオニスさんの姿を見た議員たちはざわざわとする。視線は俺達に向いている。 「本当に来たのか……」 「逃げたんじゃなかったのか?」 「処刑されたという噂も……」  ひそひそとした声があちこちから聞こえる。処刑されたってなんだよ、と思う。噂ってすごいな。  俺は一歩前を歩くレオニスさんの背中を見つめる。背筋はまっすぐで、歩調は乱れていない。鎖も拘束もない。1人の議員として堂々と立っている。対照的に正面の席にはヴァルター侯爵とオマンド子爵が並んで座っていた。ヴァルター侯爵は余裕たっぷりに肘をつき、口元に薄い笑みを浮かべている。そして隣に座るオマンド子爵は勝ち誇ったような表情をしている。どちらも、レオニスさんが証拠を持っているとは思っていないだろう。来たところでどうにもならないと。議長が木槌を手に取り、重く打ち鳴らした。 「静粛に」  その一言で議場のざわめきは、すっと引いていく。 「これより、レオニス・アーゼンハイツ卿に関する再審を開始する」  俺の喉がヒクリと鳴った。再審もなにも最初は審議などされずに罪状も告げずにいきなり拘束したくせに、と思うけれどそんな言葉は言えないので飲み込む。再審という言葉ひとつに、ここに至るまでの全てが詰まっている。議長は書類に目を落とし、淡々と読み上げる。 「アーゼンハイツ卿は無断軍事費横領、及び密輸関与の嫌疑が晴れぬまま、王都を離脱した。よって、逃亡とみなされている」  軍事費横領に密輸関与……。そんな罪状だったのか。そして逃亡したと……。なんだかめちゃくちゃだ。でも逃亡したんじゃない! でも、俺の内心など関係なく、議長の視線がまっすぐにレオニスさんに向けられる。 「アーゼンハイツ卿。弁明はあるか」  一拍の沈黙。レオニスさんは一歩前に出た。そしてその動きに議場の視線が一斉に集まる。 「ある。まず私は軍事費横領も、密輸関与もしていない。そして私は逃げてなどいない」  ざわりと空気が揺れる。 「領地からの帰路、私は何者かに襲撃され、拘束された。その際に罪状など聞いていないし、正当な手続きを踏むことも許されず、囚われていたのだ」  俺の胸が、ドクンと鳴った。こちらとしては事実を語っているに過ぎないが、その言葉はこの場では”告発”になる。  ヴァルター侯爵が鼻で笑った。 「ほう……囚われていた、とな。随分と都合のいい話しだな。証拠はあるのか」  嘲るような声。議場の何人かが同調するように頷く。その光景に、胃の奥が冷たくなる。でも、レオニスさんは目を逸らすことなく、堂々としていた。 「ある。囚われていた証拠は看守に聞けばわかるだろう。そして軍事費横領、密輸関与に関しての証拠もある」  きっぱりと告げる言葉。そして、レオニスさんはゆっくりとこちらを振り返る。その視線が一瞬俺を捉えた。大丈夫だ。そう言われた気がした。俺は深く息を吸った。ここからだ。恐怖を越えた声が試されるのは。議事堂の空気は恐ろしいほどに張り詰めていた。気持ちをしっかりと持っていないとダメだ。全てがここで明らかになる。  レオニスさんの「ある」という言葉が議場の中心に落ちてから、誰も次の言葉を発しなかった。議員たちは互いに視線を交わし、判断を測りかねている様子だった。この場でどこまで踏み込むのか。それを見極めようとしている。議長もまた、すぐには口を開かなかった。木槌を握る指にわずかな力がこもるのが見える。レオニスさんは堂々としているけれど、俺は怖いと思う。でも今は恐怖よりもこの瞬間を逃してはいけない、という焦りの方が勝っていた。ヴァルター侯爵は余裕の仮面を貼り付けたまま肘を組み直す。 「では聞こうか」  議長がようやく重い声で告げる。 「アーゼンハイツ卿。その”ある”という言葉の意味を、ここで明らかにする覚悟はありますね?」  議場の空気が、きし、と音を立てて軋んだ気がした。そして俺は無意識に一歩前へ踏み出していた。  

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