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第28話
「ンンっ、ぁ、もう」
「や、ぁ・・・あぁ、ン、か、さ―――だ、め・・・」
駄目だと言われても止める気にはなれなかった。体積を増した夏衣の性器の先走りを舐め取って、更にじわじわとそれに愛撫を繰り返す。張り詰めた快楽がそこで放出を待っているのに、何故か夏衣はそれを頑なに拒んでいる。自分ばかりが焦らされるのが恥ずかしいのか嫌なのか、夏衣は変なところで強情である。しかしどうせこの後夏衣の後ろ孔を抉じ開けて、本来使う目的ではないそこに性器を突き立てるのだから、少しくらい多めに夏衣に良い思いをして貰わないと、それがプラスにはならない気がしていた。駄目だと言われてから一層それを深く銜え込んで、葛西はそれを舌で突くのを止めなかった。
「や、ぁ・・・ああ、ああっ・・・!」
放たれた夏衣の白濁の液体を、葛西はそのままごくりと飲み下してふうと息を吐いた。言うことをひとつも聞かなかったことを、少し怒られるかなと思いながら夏衣の様子を伺うと、夏衣は荒く呼吸を繰り返しながらその蕩けた双眸で、葛西のことを無表情のまま捉えていた。
「・・・や、だって、言ったのに・・・」
「すいません、でも何かいつも俺ばっかり、善くして貰ってるので・・・」
「そんなこと、ないよ」
言いながら夏衣は、恥ずかしいのか赤い顔を腕で覆う。今物凄いことを言われた気がすると、葛西は思ったがその真相を夏衣には確かめられない。だったら少しは夏衣も自分とのセックスを、善いと思ってくれているのだろうか。殆ど自分の我侭に夏衣が付き合ってくれているのだろうと考えていたが、そうでもないと夏衣の口から教えられて葛西はその時予想外の歓喜の中にただ立ち竦んでいた。湿った体の夏衣に腕を回して抱き締めると、夏衣は体を震わせて少しだけ笑ったようだった。その唇にキスしたいと思ったけれど、先刻飲み下したもののことを考えると、それは流石に躊躇われて葛西は仕方なくその細い首に浮いた筋に唇を寄せた。まさか生きているうちで男の性器を口に含む経験をするとは思っていなかったが、それは別段思ったよりは葛西のことを辟易させなかった。夏衣の制服を剥ぎ取った日に、当然のように夏衣の体の真ん中に男の象徴があったことに、そんなに落胆していない自分というものに一番葛西自身が驚いていた。それどころか何が何処で如何変わってしまったのか、現在は何故かそれを口に含むばかりか、夏衣の出した精子を残らず飲み干してしまうほど自分は夏衣という人間に、すっかり傾倒してしまっている。こんなに妖艶な雰囲気を放つことが出来るのなら、夏衣はもしかしたら女の子なのかもしれないと考えたことは勿論なくはなかったが、呆気なく壊れたその空想にもしかしたら殆どほっとしていたかもしれない。夏衣は夏衣でそれ以上でも以下でもなく、本当に良かったと声に出さずに思うのだった。
「夏衣様、それ、如何いう意味ですか」
「何で聞くの、そんなこと。聞かなくても分かるでしょ」
「仰って欲しいです、その口から聞きたいです」
キスがしたいと思いながら、夏衣の桜色の唇をそっと指でなぞる。夏衣はすっかりそれに怪訝そうな顔をしたまま、突然此方に手を伸ばした。すぐにそれに絡め取られて、不味いと思った瞬間には夏衣の唇によって葛西のそれは塞がれていた。そればかりか、夏衣の舌は葛西の唇を割って易々と葛西の口内に侵入してきた。殆ど何も出来ずにそこに在るだけの葛西の舌を平然と夏衣は突いて弄んだ後、葛西が本気になる前に唇を離した。口内にはまだ夏衣の放った精液の青臭さが残っている。おそらくはそこを這い回った夏衣の舌もそれを感知しただろう。ぼんやり葛西が夏衣に焦点を合わせていると、夏衣は満足そうにその濡れた唇をぺろりと舐めた。
「・・・言って欲しい?」
左目だけを器用にきゅうと細くして、夏衣が小首を傾げながらそう問うて来た時に、葛西の中で何かがまたぶつりと切れる音がした。そのまま訳も分からず衝動のままに夏衣を押し倒して、その細い首筋に夢中で吸い付いた。突然のことにまた頭をぶつけた筈の夏衣がその下で、それにひとつも文句を言わないばかりか、少年のままの笑い声を何故か立てている。
「好きです、好き、本当に、夏衣様」
「知ってるよ、何回言うの、それ」
「何回でも言います、愛してるんです。俺には夏衣様だけです、貴方だけ居てくれればいい」
「あはは、葛西、本気だね」
本当だ、本気なのに。それでも夏衣は笑っている。信じてくれていないのか、時々不安にもなるが、葛西はこの時ばかりはそれを見ないふりをした。あのひとは確かに今居ないが、それは今だけなのだ。それを錯覚してはいけないと思っているのに、この幸福感を葛西は如何しても持て余してしまう。こんなに幸せだと、あのひとが帰って来たその時に、自分は自我を上手く働かせられない気がして空恐ろしい。そこまで考えて葛西は首を振って、それを打ち消そうとした。まだあのひとは居ないのだ、居ない時にそんなことを考えてナーバスになるのは止めよう。そんなことはその時に考えればいい、今はただ夏衣が目の前に居て自分のそれを許してくれている。それだけが見えていれば良いのだ、他には何も見えなくなっても構わない。構わないのだ。
「愛しています、貴方のことを」
葛西はその時、その後にもういつものように謝罪の言葉を繋げなかった。その必要も、おそらくは無くなっていたのだろう。
夏衣の鞄の中にあるハンドクリームを何個も買っては、本来の用途ではないことにその大半を消費した。はじめ夏衣が自分で慣らしたその行為に、目の奥が熱くなったことを覚えている。そんなことをまさか自分相手にしなくて良いと、言いたくて言えない。自分で自分の後ろ孔に指を突っ込み腰を震わせて、快楽とも苦痛ともとれるそれに耐える夏衣を見ているだけで、葛西はもう如何しようもないくらいに高ぶる自分のことを抑えられない。だから時々葛西は夏衣にハンドクリームを握らせて、自分でして見せてくださいと頼んでみたりする。夏衣はそれに渋々応じることもあり、勿論嫌だと言うこともある。今日は如何しようかと考えながら、こんなことで頭を一杯に出来るなんて、やはり夏衣の後ろに悲しい影を今は思い描かないで良いからだろうか。少なくとも今は、今だけは、夏衣のことを独占出来るのだと考えるだけで胸が詰まる。ハンドクリームを指で掬って、既にじくじくと熟れはじめている夏衣の後ろ孔にそっと宛がった。夏衣の体がびくりと一瞬痙攣したが、おそらくは男のものを飲み込み続けたその後孔に、葛西の指はあっけなく吸い込まれた。ハンドクリームを腸内に塗りこむようにして、その滑りを借りて奥へ進む。中で指を曲げると夏衣の口から頼りない声が漏れた。
「はぁ、あ、・・・ん、ァ・・・」
先ほど欲望を吐き出したばかりの夏衣の其れに、触れると夏衣は身を捩ってそれから逃れようとした。出したばかりの性器は貪欲に刺激を欲しているのに、夏衣の頭はそれを嫌がっている。先刻もそうして少し意地悪なことをしてしまったわけだし、今回は大人しく夏衣の意向に従おうとそっと葛西がそこから手を離すと、何故か夏衣がそれに名残惜しそうな熱い息を漏らす。
「ん・・・あぁ・・・」
夏衣の意志を確かめるつもりでそのすっかり濡れそぼった目を見やると、夏衣は葛西の痛々しいほどの視線から逃れるようにふいと顔を横に向けた。触っても良いのか、それともこの反応は本当に嫌がっているのか、葛西には判別の仕様もない。仕方なく夏衣の左足を持ち上げるようにして、後孔が良く見える少々無理な体勢のまま葛西は指の数を二本に増やした。きゅっと中が閉まって、葛西に此処に居てくれと吸い付いてくるのが分かる。前立腺を掠めると震える夏衣の快楽の色に染まった体が、何かを求めて喘いでいる。それはおそらく自分なのだと、自意識過剰気味に葛西は考えながら指の数を増やした。
「あ、あぁ、・・・ン、ン」
「はぁ、あン、もう、も、いぃ・・・よ」
熱い息とともに夏衣が漏らすその音が、葛西の頭の中を何度でも痺れさせた。
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