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Prologue 看病した・された3日間のその後
──4週間後、会社にて/作者視点
3月下旬。今年は暖かくなるのが早い。
急に舞い込んできた研修企画のために、春彦も亜紀もバタついていた。一般的には総務や人事の仕事だが、この社では部署による輪番制。主催ごとのカラーが強く出る。
かなりの規模になるが、富士山の見える巨大な研修施設で対応可能だ。2泊3日。
「あの研修施設、いいよね」と、亜紀。「キレイだし、設備も充実してて。部屋も広い。あ、部屋割り……は、まあ社員番号順でいっか」
「それは俺が決めていいよな」と、春彦がさらりと言った。
研修内容に比べたらどうでもいいことではある……が、台詞の内容にしては悪どい表情が気になる。亜紀はこの男のそういうのに敏感である。最近は、特に。
「なに? なんか悪いこと考えてるだろ。職権乱用とか」
「全然乱用じゃない。適切だ。俺たちを同じ部屋に配置するだけ。ふたりきりな」
「4人部屋しかないけど。意地でも親睦を深めてください的に」
「たまたま4人以上じゃ使えないというだけだ。3人以下だっていい」
親睦。いいよな。ふたり以上いればできる。深めましょう、と春彦がまた(亜紀から見たら)悪い顔をした。
「……いいのかねえ?」
「社会人の研修だぞ。修学旅行の部屋割りほどは重要じゃない」
「まあ、そうかもだけど」
研修自体は決してラクなものではない。この社の名物みたいなものだ。なんでも研修にする。わりと簡単に辞退もできるが、なぜかみんな喜んで参加する。研修後にもらえる「お疲れさま有給3日分」のせいもあるが、それにしても。
「ん。じゃあそういうことで」
亜紀の気も知らず、春彦はなにもなかったかのようにモニターに視線を戻した。
部屋割りなど、些末なことだ。
──でもなんだか悪いことをしてるような気持ちになるのは、なぜだ?
亜紀はこっそり周囲を見回し、誰もこちらに注目していないことを確かめた。宮島の横顔がちょっとニヤついているように見えたが、それはいつものことなので、スルー。
†
彼らは同じ会社の同じ部署に勤めるサラリーマン。部長と主任。
レストランシステム開発・管理サービスの最大手企業で、ふたりは西新宿の本社オフィスにいる。先に触れたように、宿泊を伴う研修について話し合っていた。
それで。
春彦が亜紀に愛の告白をしてから数えると、4週間。もろもろあって、ふたりの関係はほぼ進んでいない。
春彦は「お返事の保留期間」を楽しみつつも、性格的に隙あらば関係を進めたいと思っている。
亜紀は春彦に惹かれながらも、同姓相手の恋愛であるだけに、自分の気持ちを読みかねている。
さて。
1巻のプロローグに続き、先に読者のみなさまにお伝えする。
春彦の「社内イベントに関わらずふたりきりの時間を楽しむ作戦」。
これは、見事にうまくいかない。
だから彼は風邪薬を飲まない 2巻
野望の会社研修編/なぜか彼は彼のベッドにもぐり込む
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