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第7話 「此処にいる理由」
ーーYutoが島に来る1週間前ーー
Yutoは鍵を持ってかつて父が営んだ店があった場所を訪れた。
今は廃墟と化している。
目の前の建物は、
記憶の中のそれとは違っていた。
シャッターは半分歪み、
外壁の文字は剥がれ落ちている。
店の名前があったはずの場所は、
ただの影になっていた。
Yutoは一歩、近づく。
鍵穴は、そのままだった。
——まだ、使える。
鍵を差し込む前に、
中から、音がした。
人の気配。
一瞬、足が止まる。
でも、聞き間違いではない。
低い声。
短く、切れた言葉。
内容までは、聞き取れない。
Yutoは、反射的に身を引き、
壁の影に寄った。
シャッターの隙間から、
中が見える。
照明はついていない。
でも、
奥で誰かが立っているのが分かる。
二人。
いや、三人かもしれない。
テーブルの上に、
厚みのある封筒。
誰かが、それを押し出す。
別の誰かが、無言で受け取る。
一連の動きは早く、
慣れているようだった。
Yutoは、息を止めていた。
名前は出ない。
笑い声もない。
ただ、
「時間だ」
とだけ聞こえた気がした。
次の瞬間、
足音が近づく。
Yutoは反射的に背を向け、
来た道を戻る。
走らない。
振り返らない。
角を曲がってから、
ようやく呼吸をする。
胸の奥が、
嫌な音を立てている。
手のひらを見ると、
鍵が、強く握りしめられた痕があった。
Yutoは、
そのまま何もせず、
その場を離れた。
廃墟は、
また静かになる。
誰もいなかったかのように。
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